「森の主役となる木」の章で、宮脇氏は、日本の潜在植生を地域ごとに大まかに解説しています。
北海道
北海道の大部分を占めるのは、落葉広葉樹林である。
海岸沿いはカシワ林、内陸の乾きすぎず湿りすぎない平坦な低地や丘陵、山麓部などでは、ミズナラが優占していた。
さらにエゾイタヤ、センノキともいわれるハリギリ、少し湿ったところではハルニレ、ヤチダモ、またさらに湿原沿いや川沿いではハンノキが主役となっていた。
本州、四国、九州は、山岳部を除いて大部分は、照葉樹林で覆われていた。
日本の照葉樹林は、そのほとんど全域に分布しているヤブツバキの名をとって、植生学的には、ヤブツバキクラス林と呼ばれている。
関東地方以南では海抜800メートルまで、常緑広葉樹林=ヤブツバキクラス林で占められている。海岸沿いはタブノキが主木である。
そして、内陸部については、
東日本の内陸部では、その鎮守の森の主役はシラカシである。
神社やお寺だけでなく、たとえば埼玉県、栃木県、茨城県などの古い屋敷には、北、西側はシラカシが帯状に植えられている。北風を防ぐためと、西日を防ぐためである。西日は蚕の飼育に良くなかった。
また、古い集落や家の南、東側には、夏の木陰、冬の日差しを求めて落葉広葉樹でやや湿った渓谷や川沿いの斜面に自生するケヤキが屋敷林として大きくそびえているところも多い。
その場合でも、シラカシを主にし、さらにアラカシ、ウラジロガシ、モチノキ、シロダモ、ヤブツバキ、マサキ、ヒサカキ、サンゴ
ジュなどを高生垣に使っている。
西日本
西日本は、愛知県の豊橋ぐらいから南はイチイガシを加えた潜在自然植生域である。伊勢神宮をはじめ各地の神社や寺院の森、残された斜面の樹林などから、そのことがわかる。イチイガシの高いものは、25メートル以上になり、葉の裏に毛があって小さくてやや乾いた感じがする。幹が大きくなると斑紋状に樹皮がはがれるのが特徴である。
内陸部では、さらにアラカシ、シラカシ、ツクバネガシなど、カシ類が多い。
日本のシイは2種類あるが、関東では、スダジイ(イタジイともいう)のみである。
関西から沖縄県までは、スダジイが優占している。
内陸部の丘陵や山地の尾根筋では、種子が小さいコジイ(ツブラジイともいう)が自生しているが、このスダジイとコジイの見分け方はなかなか難しい。スジダイは老木になると幹の樹皮が大きくうねり立っている。コジイはのっぺりしている。実を比べれば、スダジイの方が大きく、すぐ区別がつく。(中略)
さらに奄美諸島などでは、アマミアラカシが神社やお寺の森の主役になっている。沖縄県の山地では、スダジイやコジイ、またオキナワウラジロガシの樹林が、たとえば沖縄本島北部の国頭山地の比較的土壌条件のよりやや斜面の下部や扇状地に残されている。また御願所の森にも、海岸沿いではアカギやタブノキ、あるいはスダジイ、コジイ、またやや海から隔たったところでは、オキナワウラジロガシなどが残されている。
<転載、以上>
このように基本的な日本の大きなエリア単位での潜在植生を知っておくと現在の植生を調査する際にどの程度残され、また二次林などに置きかわっているかも把握することができます。
さらには主木のみでなく、共生する「マント群落」や「ソデ群落」も把握しておくと主木が失われていてもそれらの植生で嘗ての植生を把握できることがあります。次章では、こうした共生する群落をご紹介します。