【万葉池の誕生と変遷】

万葉池は、誕生して約40年となります。万葉学者の学芸大学の第五代大田善磨学長と田代良一技官がつくり上げた池です。この池の周囲には万葉集で詠われた植物が植栽されました。
場所としては、学芸大学の全体が10万坪になる前は、「アマネ醸造株式会社」があったエリアです。

<田代良一氏について>

田代氏は、「学芸大学五十年史」によれば、東京帝国大学附属農業教員養成所(のちに農業教育専門学校と改称)を卒業し、1947年に東京第一師範学校教授、1951年に東京学芸大学講師、1960年に東京学芸大学附属小金井中学校教諭併任、そして1962年には本学施設課専門職員になりました。
氏は、文部教官から文部技官に敢えて配置換えをしてまで、造園に関して情熱を傾けた人物と言われており、万葉池についても万葉・国文学者太田善麿第五代学長(1966年教授、1973年学長就任)と協力して作り上げたと言われています。


●その後の展開●

1)「万葉池の周辺を歩く」からの紹介

学芸の森環境機構の活動の一環で、2012年には、国語科の河添房江先生と『万葉ゼミ』の学生(麻生裕貴さん、稲葉結さん、中島綾乃さん)の歌選び・現代語訳、美術科の学生(本間由佳さん、荒井幸子さん、橋本大輔さん)のデザイン力で、万葉の植物と歌の入ったオリジナルマップが作られました。

<「万葉池の周辺を歩く」の植生マップ>


<植生マップにある「東京学芸大学キャンパス通信バックナンバー:第60号」東京学芸大学名誉教授 林勉の記述より、転載>

いつだったか、この学校に来始めて少しした頃だったので
四年ほど前ーそのガクアジサイが目にとまったから、季節は今頃だった。
時計の塔のある第一部事務の建物を東の出口から北へ、生協の広場を近道しようとして、私はこの万葉池の繁みに初めて気づいたのだった。

鎌倉の明月院のように普通のアジサイが一般的なのに、
ここのガクアジサイだったのでオヤッと思ったのだ。
南米インカのマチュピチュの遺跡でも昨年四月、普通のアジサイが咲いていた。
梅雨空で雨にぬれた風情が純日本風なこの花も実は外来種で、
鄙びたガクアジサイが万葉のあぢさゐなのだ。
あたりをみまわすとこれは、万葉集に出る木が白い横長の札をつけて、
小さな長い池を取り囲んでいる。ネズ、カヤ、サネカズラ、シキミ、コナラ、コノテカシワ、シラカシ、ナツメ、トチー万葉のつるばみ、ギンモクセイー同じくつきぬちのかつら、等、約五十種。
まだ、日の浅い私は、ぞっと国語科で上代文学専攻でおられた学長太田先生に伺った。
ところが、「いいえ、これは施設の技官の田代さんがみんなされたことです。私は全く…」
というお返事だった。小金井に校舎が移った頃は、砂埃がひどかった。
体育館の北の亭々たるケヤキー万葉のつきといわれるーここは昔の武蔵野のままという。

附属中学校の玄関右の繁みにニワトコ「やまたづの迎へ」の枕詞のように対生の葉をつけ、各号館の間のハギやハダススキもかなり伸びている。
西南隅鷹野荘の塀際の雑草の中からアカネを茜色の根ごと抜いて水際近くに植えた。
池に捨てた紙コップで水をかけた。
カキツバタぐらいで、武蔵野国分寺にあるムラサキなど草類が少なく残念だ。

一月ほど前、授業を早く終わってここに来た。
今年はウツギに間に合った。

「佐伯山卯の花待ちし愛(かな)しきが
手をし取りてば花は散るとも」


女子の学生がそって手を差し出す。
いまにもこぼれ落ちそうな雪白の小さな花の集まりだ。

一めぐりして池の北に来ると、カシワを一まわりも二まわりも大きくした葉を
放射状にホオノキが枝先を広げている。
男子の学生が頭に一枝かざす。

「我が背子が捧げて持たるほほがしは
あたかも似るか青木蓋(きぬがさ)」


ドッと笑声。
ハート形の葉の木、“これがあのカツラ!?”
この黄葉はハゼの赤と共に秋の最高だ。

そっと小径の右に目をやって私は思わず声を上げた。
“あった!”それは細長い枝を伸して対生する葉を規則正しくつけ、
細かな淡紫の小さな花を群り咲かせるセンダン
三月堂不空羂索観音の光背の爽やかな、万葉のあふちである。
この木は四月に切り倒されたものと信じて疑わなかった。

生協前の花には早い藤棚の傍を通りながら、
ゴロゴロ転がっている丸太を遠くから見て、しまったと思った。

体育館前に並ぶミツマタ「春されば先づさきくさの」黄色の花も無残に鋏を入れられ、がっかりしていた矢先だった。
怒りと悲しみが渦巻いて私は当り散らし、教授会で怒鳴ろうと思った。
実はセンダンは悲しい木になっていた。憶良の日本挽歌の一つ

「妹が見し樗の花は散りぬべし
我が泣く涙未だ干なくに」


花期が長く悲しみ止まぬ歌を、昨年演習で選んだ一年の学生がいた。
しかし、夏休みに𤸷性の病で斃れてそのまま学園に帰らなかった。
同じ下宿の大学院生の網野さんにこの歌の調べ方を尋ねていたという。
その須藤裕美子さんは新潟県出身で色白の真面目な、書く字も美しい学生だった。
センダンは悲しい大切な木になった。
そしていまは事もなく細やかに枝葉を伸し花をそよ風に揺られている。
驚きの後に、怒りは消えて新しい悲しみがしみじみと胸を涵した。

ここ四五日、日差しが暑く、センダンの近くのハマユウが厚く重なる緑の葉陰から花の蕾を二つにょっきりもたげている。今年は早く、

そしてこの拙文が読者の目に止まる頃には、白い、ヒガンバナに似た細い花弁を広げよう。

「み熊野の浦の浜木綿百重なす
心は思へど直(ただ)にあはぬかも」


(東京学芸大キャンパス通信大60号より)

<転載、以上>


この林教授の文に登場する万葉池は、ガクアジサイを見た時期が5月頃で、その一月後ウツギの頃とされているのは、6月頃と思われます。この頃、ゼミの生徒たちとオリエンテーリングのようにこの万葉池を散策することが多いとおっしゃっていました。
この当時は、樹木にも「自らが何者であるか」を知ってもらいたくて「白い木の札」があったようです。それが無くなってしまった今、誰が誰なのかは、生徒にはちょっとわからないかもしれません。残念です。一年を通じて、花を咲かせたり、実をつけて、「私はここにいるのよ」と語りかける植物や樹木たちの声に万葉の人々のようにもっと耳を傾けてあげたいものです。以下にそのための情報をご案内します。


<以下に、上記の「万葉池の周辺を歩く」に登場する植物についての本サイトの内の情報をご紹介します>

【1〜3月に万葉池を楽しむために】

●実際の事前調査は、2015年1月末から、2、3月に行いました。その時の情報は、こちらのカテゴリーから、ご覧いただけます。

【4月に万葉池を楽しむために】
<作成中>

【5月の万葉池を楽しむために】

●ガクアジサイ
*ガクアジサイについての花・樹木研究のカテゴリーは、こちらを
*万葉集に詠われた紫陽花・あじさゐについてのページは、こちらをご覧ください。
*アジサイの育て方については、

●ホオノキ
*ホオノキについての花・樹木研究のカテゴリーは、こちら。
*万葉集に詠われたホオノキについてのページは、こちらをご覧ください。
*ホオノキの育て方については、

【6月の万葉池を楽しむために】

●ヤマボウシ
*ヤマボウシについては、樹木研究のカテゴリーは、こちらをご覧ください。
*万葉集に詠われた柘(つみ、ヤマボウシ)についてのコンテンツは、こちらから。
*ヤマボウシの育て方については、こちらをご覧ください。

●ウツギ
*ウツギについての花研究のカテゴリーは、こちらを
*また、同カテゴリーにある万葉集の詠われた空木(卯の花)についてのページは、こちらをご覧ください。
*ウツギの育て方については、こちらをご覧ください。

【8-9月の万葉池を楽しむために】

秋の万葉といったら、やはりハギ、萩になるのでしょう。ハギは、梅の近く、池の北側に植えられていました。多分、増えているはずなのですが、一応、萩の解説と育て方は、こちらでご覧いただけます。


<9月以降の季節と他の植物の情報は作成中です>


2)「真山教授・私の植物」Iエリアの万葉池周辺植生からの紹介

もう一つの万葉池の植生情報が真山教授の「私の植物」にある植生マップです。以下に転載して、ご紹介いたします。

<万葉池植生マップ>



1/キンモクセイ、2/アオギリ、3/サワラ、4/イチョウ、5/ エノキ、6/サンショウ
7/モミ、8/ヒイラギ、9/ヤツデ、10/ケヤキ、11/イロハモミジ、12/カヤ
13/ネムノキ、14/アベリア、15/タブノキ、16/アベマキ、17/オウゴンヒバ
18/カナメモチ、19/イチイ、20/イヌツゲ、21/シラカシ、22/クロキ、23/アオキ
24/ヒサキ、25/コムラサキ、26/ヤマグワ、27/ハイイヌガヤ、28/アケボノツツジ
29/ガクアジサイ、30/クサギ、31/モッコク、32/モチノキ、33/ホオノキ
34/ツバキ、35/ヤブツバキ、36/サカキ、37/センダン、38/カキノキ、39/シロダム
40/カツラ、41/アギニレ、42/サツキ、43/クロベ、44/ネズ、45/カシワ
46/カイズカイブキ、47/ヒヨクヒバ、48/ヤマブキ、49/サンシュユ、50/エドヒガン
51/ミツバツツジ、52/イヌガシ、53/コブシ、54/ミズキ、55/カキ、56/フジ
57/ハリセンジュ、58/ハンカチノキ、59/ウメ、60/ムクロジ、61/メグスリノキ
62/エンジュ、63/クチナシ、64/マテバシイ、65/コナラ、66/クロマツ、67/ボダイジュ
68/ヤグルマカエデ、69/アカマツ、70/ポンドサイプレス、71/ヤマブドウ
72/イヌマキ、73/ヤマハゼ、74/シラカバ、75/サルスベリ、76/トサミズキ
77/ムクノキ、78/チャボヒバ、79/コデマリ、80/タギショウ、81/ヒイラギモクセイ
82/ドウダンツツジ、83/ニオイヒバ、84/ヒノキ、85/コノテガシラ、86/オオムラサキツツジ

<転載、以上>

番号の記載された品種で、87番以上番号の品種名が不明ですが、判明し次第、掲載していく予定です。
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