西洋人にとっての「庭園」の理想は、「地上の楽園=エデンの園」のような「楽園」だとされることが多いようです。

庭園史を研究された中山理氏は、その著作「イギリス庭園の文化史」の中で、ヨーロッパ(イギリス)の「庭園文化」の発生期をギリシア・ローマ時代の庭園に探し、その「楽園」という表現と「庭園」という表現がいかに同じ意味合いであったかをその著作の中で以下のように語っています。

<以下、転載部分>

英語では、「楽園」を「パラダイス」というが、その語源には、古代ペルシャ語の「パイリダエーザ」で、「ペルシア国王の苑」、「囲まれた庭園」、「果樹園」などの意味があり、その古代ペルシア語の「パイリダエーザ」から、ヘブライ語の「パルディース」が派生した。
旧約聖書はヘブライ語で書かれていたが、ヘブライ語の「パルディース」は、古代ペルシア語とほぼ同じ意味で用いられていた。
ところが、紀元前三世紀中頃から約百年間に、アレキサンドリアで「七十人訳聖書」がギリシア語で出された。旧約聖書と外典がギリシア語に翻訳されたわけだが、その過程で「エデンの園」の訳語として、「パラディソス」が採用されたというわけだ。
ギリシア語では、歴史家のクセノフォン(ギリシアの軍人、紀元前434〜355年?)らは元々、「パラディソス」を単なる「王家の苑」という意味で使っていたのだが、このときの翻訳過程で、地上の楽園たる「エデンの園」や「天国」をも意味するようになったというわけである。

<転載、以上>

ギリシア神話の「楽園」は、エリュシオンです。
ある意味で、西洋における「庭園」はキリスト教的な「地上の楽園=エデンの園」イメージと同時にその原初的で、ルーツともなったギリシア時代の神話的な楽園イメージをも内包して、成立してきたといえます。
ここでいう、「ギリシア的な楽園、庭園のイメージ」とは、エデンの園のイメージの元となった「生命の木」、つまりヘスペリデスの園に百頭の大蛇(ラドン)が守る黄金の果実(リンゴ)の木にもつながります。このイメージは、幾つかあるギリシャ古典文学における「庭園」の代表的なイメージの一つでしょう。

それでは、ギリシア古典文学(ギリシア神話)が形作ってきた西欧の文学作品に登場する「楽園=庭園」のイメージとはどのようなものだったのでしょう。次の章では、このイメージを前出の「イギリス庭園の文化史(中山理著)」を参考文献に整理していきます。

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