同じく、「イギリス庭園の文化史」の中で中山氏は、イスラム文化における庭園の影響も西ヨーロッパの庭園(地中海沿岸に限らず、アルプス以北のイギリス、フランスの庭園なども含めて)には見られることを以下のように指摘しています。

<転載部分>

では、イスラム文化がヨーロッパ庭園に与えた影響を見てみよう。宮廷風恋愛や騎士道に勝るとも劣らぬくらい大きな影響であることが分かるだろう。
前章では、古代ペルシア語の「パイリダエーザ」、すなわち「囲まれた庭園」にふれた。いうまでもなく、「囲まれた庭園」だから、外界から切り離された私的な空間である。
まず第一に、そこは過酷な自然から身を守る場所でなくてはならず、灼熱の太陽を避け、涼しい日陰を楽しめる空間である。また砂漠のなかで、唯一喉の渇きを癒す水盤のある場所でもある。次に高い塀で囲まれているので、プライバシーを完全に守ることができ、樹木や花々の芳香が漂う中で、男女が愛を語る官能的な空間でもある。
七世紀に中東に起こったイスラム教は、このような庭園思想を聖典「コーラン」において継承した。それは選ばれた者に与えられる楽園であった。楽園の中にはいくつもの庭園があり、泉がこんこんと湧き、果実がたわわに実り、緑に満ちた牧場が広がり、珊瑚のように美しいうら若き乙女が待っている。乾燥地帯では、これ以上の庭園は考えられないだろう。
イスラムの庭園には、水が不可欠である。
聖書には、エデンの園にチグリスやユーフラテスなどの川が流れていると記されているが、
「コーラン」の楽園にも、水の川、乳の川、葡萄酒の川、蜂蜜の川の四大河が流れる。
その四つの水路の中心に噴水があり、四方へ水を送るとともに、四方に散った水もそこへと還流するのである。まだに「命の水」が循環する宇宙観を表現した庭園である。

<転載、以上>

ヨーロッパの四分庭園の起源をイスラム文化の類型的な庭の形式である「囲われた庭園」とコーランの思想の中に発見することになります。
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ギリシア古典文学に登場する「庭園風景」
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ギリシャ古典文学から、ヨーロッパ庭園の祖型を読み解く