「江戸からかみ」で久米氏は、江戸の風情という表現を使って、以下の江戸ならではの特徴的な文様の発展を指摘しています。

そのひとつは、江戸の「いき」という美意識に影響された「縞模様」です。江戸からかみの「関東縞」(紺・柿・茶・草色の四本の線で構成される)や、「有平縞」(ポルトガル語の砂糖菓子を意味するalfeloaに由来し、赤・青・白の三色の線で構成する縞)、「菊五郎格子」(歌舞伎役者・尾上菊五郎にちなむ意匠で、四本の平行線と五本の平行線を縦横に交差させて格子をつくり、「キ」と「呂」の字を配して、「キ九五呂」の意味をもたせたもの)などを上げています。

上方から見て、江戸的な風情として、江戸の風流人が自然を楽しむために郊外に野趣をもとめる「武蔵野」が特に江戸的な風情を表現するものになったようです。

また、京都にはなく、江戸(東国)ならではの風景としては、
波や川など、海湾や大河をモチーフにした、
「北斎大波」を筆頭に波や川に関わる鳥・魚・龍・舟などを配した文様が好まれたとしています。
上方でももちろん、多く用いられていますが、「波に鷗」「網代波」「川瀬千鳥」「州浜網代貝尽くし」「浪に千鳥」などがそれらであるとしています。
ふすま絵にも「海と富士」「朝富士」「松島遠景」「松島五大堂」などもこうした東国風景を写した文様が見られます。


肝心の花に関わる文様はどうでしょうか?

花文様としては、
「続古今和歌集」の源通方の「武蔵野は月の入るべき嶺もなし、尾花が末にかかる白雲」という歌を上げ、その広々とした草原、とくに秋のききょう、オミナエシ、ススキなどの生い茂る風景をデフォルメした文様の「武蔵野」を特徴的な文様としています。

また、江戸の地名にちなみ、あるいは著名な画家(例として、竹内栖鳳や柴田是真を上げています)の絵をデザインした
「隅田桜」「江戸桐」「栖鳳桐」「是真竹」などを上げています。

もちろん、桜、桐、秋の七草など、上方でも画題として多く取り上げられているものですが、江戸で特徴的に流行したからかみ文様の背景にはこうした江戸風情として、これらが庶民に好まれたということになるのでしょう。