古典に初出する植物を研究し、発表している第一人者の磯野直秀教授の文献では、「キキョウ(桔梗、きちかう)」の初出は、古今和歌集とされています。

注)この磯野氏の初出一覧リストは、こちらからからご覧いただけます。

●古今和歌集の「きちかう」
平安時代、古今和歌集では、桔梗は当時の漢字の発音から「きちかう」と呼ばれ、古今和歌集の紀友則の物名歌に登場します。

秋ちかう野はなりにけり白露のおける草葉も色かはりゆく

歌の解釈:
初二句の「秋ちかう野はなりにけり」に「きちかうのはな」を隠した言葉遊としての物名歌です。
歌の意味としては、「涼しさの増した晩夏の野では、毎朝白露に濡れる草の葉も色が衰えてゆく」です。
その歌の裏には、「永く咲き続けた桔梗の花がついに萎れてゆくことを惜しんだ」心情が隠されて歌われています。

注)「物名歌」とは、題として与えられた物の名を、意味を換えて一首の中に詠み込んだ歌のこと。「隠題(かくしだい)」とも呼ばれる。句にまたがって埋め込んだり、清濁を換えたりして、隠し方の巧妙さや意味の転換の奇抜な飛躍が競われたようです。

例:古今集・物名の巻頭 「心から花のしづくにそぼちつつうくひずとのみ鳥のなくらむ」(藤原敏行 古今 422)
【歌の意味】自分の心から花の雫に濡れながら、「憂(う)く干(ひ)ず」――翼が乾かなくて辛いとばかり、この鳥は鳴くのだろうよ。
【物名の解説】
この歌では「うくひす(鶯)」という題を与えられ、これを「憂く干ず」に読み換えて、しかも鶯を主題とした歌にしています。当時、は、仮名の清濁は書き分けませんでした。


さて、それでは、この紀友則とは、どんな人物だったのでしょう。また、その「きちかう」との縁はどのようなものだったのでしょう?

<この項、続く>
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