<「花の西洋史事典(アリス・M・コーツ著)」から、転載>

カンパヌラ・メディウム(Campanula medium 和名フウリンソウ)。現在、英語名で「カンタベリーの鐘」(Canterbury Bells)として知られているヨーロッパ産のカンパヌラは、16、17世紀には、「コヴェントリーの鐘」と呼ばれていた。そして、「カンタベリーの鐘」は、同じ属の別の花、イギリスの自生種カンパヌラ・トラケリウム(C. trachelium)につけられた名前であった。
これは、英語名「ハクスフート」(Haskewute、ドイツ語でハルスクラウト「喉の草」からきている)、または「喉の草」(Throatwort、うがい薬として用いられたのでこの名がある)という。
今日では、「チクチクとした葉のベルフラワー」(Nettle-leaved Bellflower)とか、「鐘楼のコウモリ」(Bats in the Belfry)という名の方が良く知られている。
「カンタベリーの鐘」も「コヴェントリーの鐘」も1578年に出たヘンリー・ライトの『新本草書』の中に入っている。ジェラードは、フウリンソウについて、花の内側は「犬もしくたそれに似た種類の動物の耳に生えているような柔らかい毛がたくさん付いている」と記している。また、「これらは森、山、暗い谷、生垣のすそに生える。とくにコヴェントリーのあたりでは野原にたくさん生えているので、コヴェントリーベルの名前がある。ロンドンでは、カンタベリーベルと呼ばれる。しかし、その名は不適当だ。カンタベリーの近郊のケントには、別の種類のカンパヌラが生えており、それこそカンタベリーベルの名がふさわしい、なぜなら、カンタベリーではどこよりもこの植物が多く咲くからである」と述べている。
別の記述家は、「カンタベリーベル」の名前は、トラケリウム種に与えるべきだと書いている。花の形がカンタベリーへ巡礼する人たちが馬に付けた鈴とよく似ているからとのことである。
パーキンソンはこのことについて、もっと詳しく調べた。「コヴェントリーベルは、コヴェントリーのどこを探しても野生の状態では生えていない。この情報は、実際コヴェントリーに住んでいるブライアン・ボール氏という信頼できる薬屋から得たものであるかた確かである。もちろん、他の地方と同様にコヴェントリーでも庭では育てられている」
ハンベリーは、「コヴェントリーベルの根は食べられる。なかなかおいしいという人も多い。これと似た種であるランピアンと同じくゆでて食べる」といっている。フウリンソウはピレネー山脈が原産地であると信じられているが、長い間栽培されてきたから、今では本当に野生の状態を見分けるのは困難である。

<転載、以上>

●ジェラードについての説明は、こちらをご覧ください。

●パーキンソン(ジョン・パーキンソン)については、こちらをご覧ください。

●ヘンリー・ライトの「新本草書」とは

ヘンリー・ライト(Henry Lyte, 1529 - 1607)
A niewe Herball『新本草書』(1578)

サマセット州の良家に生まれた。祖先はイギリス史の黎明期にまでさかのぼる古い家系のようです。ライトの『新本草書』(1578)は,ドドエンスがフラマン語で著わした『本草書』(1554)をクルシウスがフランス語訳したものの重訳です。自分自身が集めたものとドドネウスが提供した新材料を合わせ、より詳しい説明を加えた増補版といえる本草書です。
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