<Wikipediaより、転載>

モクレン属 (Magnolia) はおよそ210種を含む大きな被子植物モクレン目モクレン科の属である。
モクレン属の分布は比較的不連続である。北米東部、中米、西インド諸島および東アジア、東南アジアである。いくつかの種は南米産である。今日多くのモクレン属の種と現在も増え続けている交配種が観賞用樹木として北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドで植栽されている。園芸関係では属名からマグノリアと総称される。
属名はフランスのモンペリエの植物学者ピエール・マニョル (Pierre Magnol) に因んで名づけられた。
(学名 Magnolia の起源参照)

【概説】

モクレン属は進化の観点で古い属である。ハチの登場の前に進化した花は、甲虫を誘引するように発達した。そのため、雌ずいはしっかりとできており、甲虫の徘徊による破壊や食害を防いでいる。化石の種であるM. acuminataは2000万年前のものと報告されており、モクレン科に属すると同定可能な植物は9500万年前に遡る。モクレン属のそれ以外の原始的な特徴として、がくと花弁が区別できないことがある。花被片の用語はモクレンが持っている中間的な形態を指す。モクレン属の葉は鱗翅目のいくつかの種、Giant Leopard Mothなどに食用とされる。

マグノリアはミシシッピ州とルイジアナ州の州花である。ミシシッピ州は、州内にマグノリアが多いことから、マグノリアの州 (Magnolia State) と俗称される。また、ミシシッピ州の州の木である。

【学名 Magnolia の起源】

1703年にシャルル・プリュミエ (Charles Plumier) が Generaの中でマルティニーク島の花木を記載している。地元で 'Talauma' と呼ばれていたこの種に、プリュミエはピエール・マニョル (Pierre Magnol) に因んで Magnolia と命名した。マニョルの弟子ジョゼフ・ピトン・ツルヌフォール (Joseph Pitton de Tournefort) のもとでパリで植物学を研究していたイギリスの植物学者ウィリアム・シェラード (William Sherard) が、おそらくプリュミエの後で最初に Magnolia の名前を用いた人物であろう。シェラードは、少なくともディレニウス (Johann Jacobs Dillenius) のHortus Elthamensisとマーク・ケイツビー(Mark Catesby) の有名な『カロライナの自然史』の分類の部分には関係していた。これらはプリュミエの Genera の後に Magnolia の名前を北米温帯の花木のいくつかの種に対して使った研究である。
リンネはプリュミエの Genera をよく知っていた。『自然の大系』 Systema Naturae の1735年の初版では、Magnolia の名前を記載せずにプリュミエの研究の参照という形で使っている。1753年には、『植物の種』Species Plantarum の初版でプリュミエの Magnolia を使用している。リンネは標本庫のプリュミエの Magnolia の標本を(仮に存在したとしても)見たことはなかったし、記載と貧弱な画だけしか手許になかったので、ケイツビーが1731年に『カロライナの自然史』に記載したものと同じと判断したにちがいなく、Magnolia virginiana var. foetida(現在の M. grandiflora)の同物異名(シノニム)とした。
プリュミエが最初に Magnolia と命名したものは、後にラマルクによって Annona dodecapetala と命名され、それ以降にMagnolia plumieri や Talauma plumieri (やそれ以外の多数の名前)で命名されたが、今日では Magnolia dodecapetala の名称で知られる。

【初期の文献と記載】

モクレンは中国で古くから知られて利用されてきた。古い記録は1083年に遡る。スペインのメキシコ征服の後、スペインのフェリペ2世は侍医のフランシスコ・エルナンデス (Francisco Hernandez) に対し、1570年の学術調査をおこなわせた。エルナンデスは図を含んだ植物の記載を多数行ったが、出版はそれ以後におこった多数の事故により遅れ妨げられた。原稿は1629年から1651年にかけてアッカデーミア・デイ・リンチェイ (Accademia dei Lincei)の会員たちによって再編集され、1651年に3分冊の Nova plantarum historia Mexicana(メキシコ植物史)として出版された。この研究には現地名で'Eloxochitl'と記されている、おそらくMagnolia dealbata (= Magnolia macrophylla subsp. dealbata) の図が含まれている。これがおそらく最も初期の西洋に紹介されたモクレンの記載であろう。 イギリスやフランスの北米に派遣されたキリスト教伝道使節によってモクレンが記録されたか否か不明確であるが、ヨーロッパへのモクレンの移入は記録が残っている。宣教師で植物収集家のジョン・バニスター (John Bannister, 1654-1693) がロンドンの司教ヘンリー・コンプトン (Henry Compton) にバージニアからLaurus tulipifera, foliis subtus ex cinereo aut argenteo purpurascentibus(訳注:非常に長いがこれがリンネの二名法以前の種名)を送ってきたのである。今日、これはMagnolia virginiana (Sweetbay magnolia) として知られる。つまり、最初のモクレンはシャルル・プリュミエールがマルチニーク諸島で 'Talauma' を発見してMagnolia と名前を付ける前にヨーロッパに到達していたのである。

【命名と分類】

リンネが Magnolia を Species Plantarum (1753) でとりあげたとき、ただ1種 Magnolia virginiana からなる見出しを作った。この種の下に、5つの変種を記載した (glauca, foetida, grisea, tripetala, acuminata)。Systema Naturae の第10版 (1759) では変種 griesa と glauca をまとめ、残った4つの変種を種に格上げした。
18世紀の終わりまでに、アジアを探検した植物学者とプラントハンターは中国と日本のモクレンを命名し記載しはじめた。西洋の植物学者によって記載された最初のアジアの種は Magnolia denudata と Magnolia liliiflora、また Magnolia coco と Magnolia figoである。その後間もなく、1794年にツンベリー (Carl Peter Thunberg) がホオノキ Magnolia obovata を日本で採集、記載し、それと前後してコブシ Magnolia kobus が採集された。それ以降、種のリストは長くなりつづけていく。
種が増えるにつれ、モクレン属はMagnolia亜属とYulania'亜属に分割された。Magnolia は特にアメリカ合衆国で園芸上重要な種であるアメリカの常緑のタイサンボクおよび基準種のMagnolia virginianaを含む。Yulania亜属は数種のアジアの落葉性の種、ハクモクレン Magnolia denudata やコブシ Magnolia kobusを含む。これらはそれ自身で、また交配種の親として園芸上重要である。Yulania亜属に属するものにはまた、アメリカの落葉性の Magnolia acuminata (Cucumber tree) があり、最近は黄色の花色を新しい交配種にもたらすものとして重要になっている。

モクレン科の中の類縁関係は長い間分類学者の悩みであった。この科が非常に古いこと、多くの地質学的イベント、例えば氷河期や造山運動、大陸移動などを生き延びてきたために、分布は散在的なものである。いくつかの種や種群は長期間孤立していたのに対し、他のものは密接な接触があった。科の中、あるいはモクレン属の中を分割するにあたって、形態的特徴のみではほとんど不可能に近いことが明らかになった。

20世紀の終わりになって、DNA塩基配列の決定が系統学的に大規模な研究に使えるようになってきた。モクレン科の多数の種についてのいくつかの研究で、類縁関係の調査がなされた。これらの研究いずれもが明らかにしたのは、モクレン属Magnolia亜属に対してよりも、Michelia属とモクレン属Yulania亜属は相互にはるかに近縁であるという結果であった。 これらの系統学的研究は形態学的データでも支持された。
名称が類縁関係を反映するものであるなら、Michelia属とモクレン属Yulania亜属の関係は好ましいものではない。分類学的には3つの選択がある。


<1>
Michela属とYulania亜属の種をMagnoliaではない同じ属にする(Micheliaに先取権がある)。

<2>
Yulania亜属を属の階級にして、Michelia属とMagnolia亜属は変更しない。

<3>
Michelia属をモクレン属に加えて広義のモクレン属 Magnolia s.l.にする。

Magnolia亜属は属と科の基準種である Magnolia virginiana を含んでいるため名称の変更が出来ない。Michelia属の種で園芸上経済上重要な種は、材を別としてあまりない。Magnolia亜属とYulania亜属は園芸上重要な種を多く含んでおり、名称の変更は歓迎されるものではない。Magnolia はヨーロッパでは程度に違いはあってもYulania属の同義語である。そのため、Yulania亜属 と Michelia属に近縁性を認める多くの分類学者が第3の選択肢を支持している。同様にして、Talauma と Dugandiodendron の2属はMagnolia亜属に、ManglietiaはMagnolia亜属または新しい亜属の地位を与えられるであろう。 Elmerrillia はMichelia属やYulania亜属に近いように見えるので、現在のMichelia属と同じように扱われるであろう。小さな、あるいは単型の属、Kmeria、Parakmeria、Pachylarnax、Manglietiastrum、Aromadendron、Woonyoungia、Alcimandra、Paramichelia、Tsoongiodendron などの命名法上の正確な地位は明確ではない。Michelia属をモクレン属にまとめる分類学者はこれらの小さな属を広義のモクレン属にまとめる傾向がある。現在のところ、欧米の植物学者は大きなモクレン属に、多くの中国人研究者は小さな属を認める傾向にある。

【モクレン属の主な種】

以下のリストは温帯の種のみで、それ以外に多くの種が熱帯に産する。完全なリストは「モクレン協会 (Magnolia Society)」のリストを参照。

Magnolia subgenus Magnolia: 雄しべは花の前面中心部に向かって裂開する。落葉または常緑、花は葉のあとで展開する。
Magnolia delavayi - Chinese evergreen magnolia
Magnolia fraseri - Fraser magnolia
Magnolia globosa - Globe magnolia
Magnolia grandiflora -タイサンボク Southern magnolia
Magnolia guatemalensis - Guatemalan magnolia
Magnolia macrophylla - Bigleaf magnolia
Magnolia macrophylla subsp. ashei - Ashe magnolia
Magnolia macrophylla subsp. dealbata - Mexican bigleaf magnolia
Magnolia nitida -
Magnolia obovata -ホオノキ Japanese bigleaf magnolia
Magnolia officinalis - Houpu magnolia
Magnolia sieboldii - Siebold's magnolia(種小名はシーボルトに因む)
Magnolia sieboldii subsp. sieboldii --オオバオオヤマレンゲ
Magnolia sieboldii subsp. japonica --オオヤマレンゲ
Magnolia tripetala - Umbrella magnolia
Magnolia virginiana - Sweetbay magnolia
Magnolia wilsonii - Wilson's magnolia
Magnolia subgenus Yulania: 雄しべは側面で裂開する。落葉性。花は葉より先に展開する(M. acuminataを除く)。
Magnolia acuminata - Cucumber tree
Magnolia amoena -
Magnolia biondii -
Magnolia campbellii - Campbell's magnolia
Magnolia cylindrica -
Magnolia dawsoniana - Dawson's magnolia
Magnolia denudata - Yulan magnolia
Magnolia kobus -コブシ Kobushi magnolia
Magnolia liliiflora -モクレン Mulan magnolia
Magnolia salicifolia -タムシバ Willow-leafed magnolia
Magnolia sargentiana - Sargent's magnolia
Magnolia sprengeri - Sprenger's magnolia
Magnolia stellata -シデコブシ Star magnolia
Magnolia zenii -

Magnolia hodgsonii
Magnolia sirindhorniae - Princess Sirindhorn's magnolia

【利用】

全般に、モクレン属は園芸家の関心を惹く属である。交配によって異なった種の優れた特徴を合わせることは成功しており、親より若い樹齢で開花するものや、より特徴のある花を付けるものが作られている。もっとも広く植えられているモクレンは交配種のサラサモクレン(M. x soulangeana、モクレンとハクモクレンの交配種)である。
M. officinalis の樹皮は漢方薬で「厚朴」として、日本ではホオノキが同様に使われる。芳香のある樹皮はマグノロール (magnolol) とホノキオール (honokiol) を含み、この2種のポリフェノール化合物はanti-anxietyとanti-angiogenicの性質を示す。モクレンの樹皮はまたアレルギー反応とasthmaticを押さえることが示されている。

<転載、以上>
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モクレン属(Magnolia)