【万葉では、柘(つみ)と呼ばれているヤマボウシ】

柘は、普通、ヤマグワ、山桑を指しますが、万葉集の柘(つみ)は、山法師、ヤマボウシのことという説もあります。

●歌は、第三巻にあります。

仙柘枝(ひじりのつみのえ)の歌三首

霰降り 吉志美(きしみ)が岳を 
険(さが)しみと 
草取りかねて 妹が手を取る


万葉集 3-385

この夕 柘(つみ)の小枝(さえだ)の流れ来ば
梁(やな)は打たずて 取らずかもあらむ


万葉集 3-386

意味:この夕暮れ、もし仙女に化身するという柘の小枝が流れてきたならば、簗は打たないで、柘の枝を取らずしまいになりはしないだろうか。

いにしへに 
梁打つ人の なかりせば
ここにもあらまし 柘の枝はも


万葉集 3-387

●いずれも、万葉の頃の「吉野の拓の枝伝説」に基づくものです。

作者としては、
若宮年魚麻呂(わかみやのあゆまろ)とされていますが、どのような人物かは、不明です。


この歌で「仙女が化かした柘の枝」とあるのは、古くからの吉野の伝説のことを言っています。

その伝説は、「昔、吉野の里の美稲(ウマシネ)という若者が、吉野川に簗(ヤナ)を打ってアユをとっていました。ある日、上流から柘の枝が流れてきて簗にかかったので、家に持ち帰っておいたら柘の枝が美しい女性になりました。美稲はびっくりしましたが、その女性を妻に迎えて毎日幸せに暮らしましたとさ。」というものです。
こうした中国の仙女については、中西進「仙柘枝歌」『万葉集の比較文学的研究 (下)』(講談社)。辰巳正明「歌掛けの民俗誌」『折口信夫』(笠間書院)などの文献を別カテゴリーで調べてみたいと思います。
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