【万葉集に140首以上も登場する萩】

なぜ、萩は、これほどまで多く歌に詠まれたのか?
この疑問は、万葉集を知る人なら、誰でもいたる疑問ではないでしょうか?その理由には、幾つかの説があるようです。以下にご紹介します。また、万葉に詠われているハギは、ハギ属の中のヤマハギという品種だと言われています。

第一の説です。

ハギは薄暗い林床に生える植物ではありません。また、パイオニア植物といって山火事や放牧地で森林がなくなった後、一面に生えることのある植物です。さらに、ハギは根に共生する根粒菌から窒素分の栄養を受け取ることができるため、痩せた土地でも他の植物に先行して育つことが可能です。
このようなことから、当時、都であり、周囲では山焼きなどが行われただろう大和盆地ではハギが増えていて、上代の人はハギを目にすることが多かったのではないかというものです。

第二の説は、切っても切ってもすぐに芽生えるその強い生命力にあやかり長寿、繁栄祈ることがその理由ではないかというものです。

更に実用性、日常的に利用したというこの植物の特徴からというものです。
萩の葉は乾燥させて茶葉に、実は食用、根は婦人薬(めまい、のぼせ)、樹皮は縄、小枝は垣根、屋根葺き、箒、筆(手に持つ部分)、さらに馬牛などの家畜の飼料など、多岐にわたって利用され、
万葉人の生活に密着した有用植物だったからという説です。


【万葉集に登場する萩の歌】

<142首の歌>

0120: 我妹子に恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを

0231: 高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに

0233: 高円の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ偲はむ

0455: かくのみにありけるものを萩の花咲きてありやと問ひし君はも

0970: 指進の栗栖の小野の萩の花散らむ時にし行きて手向けむ

1047: やすみしし我が大君の高敷かす大和の国は.......(長歌)

1363: 春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね

1364: 見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きてならずかもあらむ

1365: 我妹子がやどの秋萩花よりは実になりてこそ恋ひまさりけれ

1431: 百済野の萩の古枝に春待つと居りし鴬鳴きにけむかも

1468: 霍公鳥声聞く小野の秋風に萩咲きぬれや声の乏しき

1514: 秋萩は咲くべくあらし我がやどの浅茅が花の散りゆく見れば

1530: をみなへし秋萩交る蘆城の野今日を始めて万世に見む

1532: 草枕旅行く人も行き触ればにほひぬべくも咲ける萩かも

1533: 伊香山野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ

1534: をみなへし秋萩折れれ玉桙の道行きづとと乞はむ子がため

1536: 宵に逢ひて朝面なみ名張野の萩は散りにき黄葉早継げ

1538: 萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花

1541: 我が岡にさを鹿来鳴く初萩の花妻どひに来鳴くさを鹿

1542: 我が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも

1547: さを鹿の萩に貫き置ける露の白玉あふさわに誰れの人かも手に巻かむちふ

1548: 咲く花もをそろはいとはしおくてなる長き心になほしかずけり

1550: 秋萩の散りの乱ひに呼びたてて鳴くなる鹿の声の遥けさ

1557: 明日香川行き廻る岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ

1558: 鶉鳴く古りにし里の秋萩を思ふ人どち相見つるかも

1559: 秋萩は盛り過ぐるをいたづらにかざしに挿さず帰りなむとや

1560: 妹が目を始見の崎の秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ

1565: 我が宿の一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも

1575: 雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも

1579: 朝戸開けて物思ふ時に白露の置ける秋萩見えつつもとな

1580: さを鹿の来立ち鳴く野の秋萩は露霜負ひて散りにしものを

1595: 秋萩の枝もとををに置く露の消なば消ぬとも色に出でめやも

1597: 秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり

1598: さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露

1599: さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる

1600: 妻恋ひに鹿鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎゆく

1605: 高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも

1608: 秋萩の上に置きたる白露の消かもしなまし恋ひつつあらずは

1609: 宇陀の野の秋萩しのぎ鳴く鹿も妻に恋ふらく我れにはまさじ

1617: 秋萩に置きたる露の風吹きて落つる涙は留めかねつも

1618: 玉に貫き消たず賜らむ秋萩の末わくらばに置ける白露

1621: 我が宿の萩花咲けり見に来ませいま二日だみあらば散りなむ

1622: 我が宿の秋の萩咲く夕影に今も見てしか妹が姿を

1628: 我が宿の萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる

1633: 手もすまに植ゑし萩にやかへりては見れども飽かず心尽さむ

1761: 三諸の神奈備山にたち向ふ御垣の山に.......(長歌)

1772: 後れ居て我れはや恋ひむ印南野の秋萩見つつ去なむ子故に

1790: 秋萩を妻どふ鹿こそ独り子に子持てりと.......(長歌)

2014: 我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に

2094: さを鹿の心相思ふ秋萩のしぐれの降るに散らくし惜しも

2095: 夕されば野辺の秋萩うら若み露にぞ枯るる秋待ちかてに

2096: 真葛原靡く秋風吹くごとに阿太の大野の萩の花散る

2097: 雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむこの萩原に雨な降りそね

2098: 奥山に棲むといふ鹿の夕さらず妻どふ萩の散らまく惜しも

2099: 白露の置かまく惜しみ秋萩を折りのみ折りて置きや枯らさむ

2100: 秋田刈る刈廬の宿りにほふまで咲ける秋萩見れど飽かぬかも

2101: 我が衣摺れるにはあらず高松の野辺行きしかば萩の摺れるぞ

2102: この夕秋風吹きぬ白露に争ふ萩の明日咲かむ見む

2103: 秋風は涼しくなりぬ馬並めていざ野に行かな萩の花見に

2105: 春されば霞隠りて見えずありし秋萩咲きぬ折りてかざさむ

2106: 沙額田の野辺の秋萩時なれば今盛りなり折りてかざさむ

2107: ことさらに衣は摺らじをみなへし佐紀野の萩ににほひて居らむ

2108: 秋風は疾く疾く吹き来萩の花散らまく惜しみ競ひ立たむ見む

2109: 我が宿の萩の末長し秋風の吹きなむ時に咲かむと思ひて

2110: 人皆は萩を秋と言ふよし我れは尾花が末を秋とは言はむ

2111: 玉梓の君が使の手折り来るこの秋萩は見れど飽かぬかも

2112: 我がやどに咲ける秋萩常ならば我が待つ人に見せましものを

2113: 手寸十名相植ゑしなしるく出で見れば宿の初萩咲きにけるかも

2114: 我が宿に植ゑ生ほしたる秋萩を誰れか標刺す我れに知らえず

2116: 白露に争ひかねて咲ける萩散らば惜しけむ雨な降りそね

2117: 娘女らに行相の早稲を刈る時になりにけらしも萩の花咲く

2118: 朝霧のたなびく小野の萩の花今か散るらむいまだ飽かなくに

2119: 恋しくは形見にせよと我が背子が植ゑし秋萩花咲きにけり

2120: 秋萩に恋尽さじと思へどもしゑやあたらしまたも逢はめやも

2121: 秋風は日に異に吹きぬ高円の野辺の秋萩散らまく惜しも

2122: 大夫の心はなしに秋萩の恋のみにやもなづみてありなむ

2123: 我が待ちし秋は来たりぬしかれども萩の花ぞもいまだ咲かずける

2124: 見まく欲り我が待ち恋ひし秋萩は枝もしみみに花咲きにけり

2125: 春日野の萩し散りなば朝東風の風にたぐひてここに散り来ね

2126: 秋萩は雁に逢はじと言へればか声を聞きては花に散りぬる

2127: 秋さらば妹に見せむと植ゑし萩露霜負ひて散りにけるかも

2142: さを鹿の妻ととのふと鳴く声の至らむ極み靡け萩原

2143: 君に恋ひうらぶれ居れば敷の野の秋萩しのぎさを鹿鳴くも

2144: 雁は来ぬ萩は散りぬとさを鹿の鳴くなる声もうらぶれにけり

2145: 秋萩の恋も尽きねばさを鹿の声い継ぎい継ぎ恋こそまされ

2150: 秋萩の散りゆく見ればおほほしみ妻恋すらしさを鹿鳴くも

2152: 秋萩の散り過ぎゆかばさを鹿はわび鳴きせむな見ずはともしみ

2153: 秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ露を別けつつ妻どひしける

2154: なぞ鹿のわび鳴きすなるけだしくも秋野の萩や繁く散るらむ

2155: 秋萩の咲たる野辺にさを鹿は散らまく惜しみ鳴き行くものを

2168: 秋萩に置ける白露朝な朝な玉としぞ見る置ける白露

2170: 秋萩の枝もとををに露霜置き寒くも時はなりにけるかも

2171: 白露と秋萩とには恋ひ乱れ別くことかたき我が心かも

2173: 白露を取らば消ぬべしいざ子ども露に競ひて萩の遊びせむ

2175: このころの秋風寒し萩の花散らす白露置きにけらしも

2182: このころの暁露に我がやどの萩の下葉は色づきにけり

2204: 秋風の日に異に吹けば露を重み萩の下葉は色づきにけり

2205: 秋萩の下葉もみちぬあらたまの月の経ぬれば風をいたみかも

2209: 秋萩の下葉の黄葉花に継ぎ時過ぎゆかば後恋ひむかも

2213: このころの暁露に我が宿の秋の萩原色づきにけり

2215: さ夜更けてしぐれな降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも

2221: 我が門に守る田を見れば佐保の内の秋萩すすき思ほゆるかも

2225: 我が背子がかざしの萩に置く露をさやかに見よと月は照るらし

2228: 萩の花咲きのををりを見よとかも月夜の清き恋まさらくに

2231: 萩の花咲きたる野辺にひぐらしの鳴くなるなへに秋の風吹く

2252: 秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜は更けぬとも

2254: 秋萩の上に置きたる白露の消かもしなまし恋ひつつあらずは

2255: 我が宿の秋萩の上に置く露のいちしろくしも我れ恋ひめやも

2258: 秋萩の枝もとををに置く露の消かもしなまし恋ひつつあらずは

2259: 秋萩の上に白露置くごとに見つつぞ偲ふ君が姿を

2262: 秋萩を散らす長雨の降るころはひとり起き居て恋ふる夜ぞ多き

2271: 草深みこほろぎさはに鳴くやどの萩見に君はいつか来まさむ

2273: 何すとか君をいとはむ秋萩のその初花の嬉しきものを

2276: 雁がねの初声聞きて咲き出たる宿の秋萩見に来我が背子

2280: 萩の花咲けるを見れば君に逢はずまことも久になりにけるかも

2284: いささめに今も見が欲し秋萩のしなひにあるらむ妹が姿を

2285: 秋萩の花野のすすき穂には出でず我が恋ひわたる隠り妻はも

2286: 我が宿に咲きし秋萩散り過ぎて実になるまでに君に逢はぬかも

2287: 我が宿の萩咲きにけり散らぬ間に早来て見べし奈良の里人

2289: 藤原の古りにし里の秋萩は咲きて散りにき君待ちかねて

2290: 秋萩を散り過ぎぬべみ手折り持ち見れども寂し君にしあらねば

2292: 秋津野の尾花刈り添へ秋萩の花を葺かさね君が仮廬に

2293: 咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの秋萩を見せつつもとな

3324: かけまくもあやに畏し藤原の都しみみに.......(長歌)

3656: 秋萩ににほへる我が裳濡れぬとも君が御船の綱し取りてば

3677: 秋の野をにほはす萩は咲けれども見る験なし旅にしあれば

3681: 帰り来て見むと思ひし我が宿の秋萩すすき散りにけむかも

3691: 天地とともにもがもと思ひつつありけむものを.......(長歌)

3957: 天離る鄙治めにと大君の任けのまにまに.......(長歌)

4154: あしひきの山坂越えて行きかはる年の緒.......(長歌)

4219: 我が宿の萩咲きにけり秋風の吹かむを待たばいと遠みかも

4224: 朝霧のたなびく田居に鳴く雁を留め得むかも我が宿の萩

4249: 石瀬野に秋萩しのぎ馬並めて初鷹猟だにせずや別れむ

4252: 君が家に植ゑたる萩の初花を折りてかざさな旅別るどち

4253: 立ちて居て待てど待ちかね出でて来し君にここに逢ひかざしつる萩

4296: 天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも

4297: をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露別け鳴かむ高圓の野ぞ

4315: 宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高圓の宮

4318: 秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか

4320: 大夫の呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原

4444: 我が背子が宿なる萩の花咲かむ秋の夕は我れを偲はせ

4515: 秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ

<以上>

<この項、作成中>