マツ属(マツぞく、学名:Pinus)は、マツ科の属の一つ。マツ科のタイプ属である。日本に広く分布するアカマツ、クロマツは英語でそれぞれJapanese red pine、Japanese black pineと呼ばれる[要出典]。

分布

マツ属植物の分布範囲
マツ属の天然分布は赤道直下のインドネシアから、北はロシアやカナダの北極圏に至り、ほぼ北半球に限られるといってよい。これは針葉樹としては最も広い範囲に当たる。温度の適性が広いことが一因として挙げられており、亜熱帯や熱帯に分布する種でも−10℃程度の低温・組織の凍結には堪えて生存するという[1]。現在では植栽の結果南半球でも見られ、オーストラリアやニュージーランド、アフリカ諸国で大規模に植栽されているラジアータマツ (P. radiata) が特に有名。

化石の研究によれば、マツ属は比較的古い時代に登場したとされ、現生種の多様性は進化してきた年月の長さによるものとされている[2]。

形態
マツ属に含まれるものはいずれも木本であり、草本は含まれない。樹高は10 m未満のものから、大きいものでは40ないしは50 mに達する種もある。アメリカ合衆国西部に分布するサトウマツ (Pinus lambertiana) やポンデローサマツ (P. ponderosa) では樹高80 mを超える個体も報告されている。
樹木の樹形は環境に左右されるが、マツ属の樹形は同じマツ科に属するモミ属やトウヒ属のそれに比べるとより環境の影響を受けやすく不定である。苗木のうちは綺麗なクリスマスツリー状の円錐形だが、大きくなるにつれて先端は鈍く丸まり広葉樹の様な外観になるものも多い。高山に生育する種では上に伸びず匍匐状に横に広がるものも知られる。日本ではマツの樹形を整えるテクニックとして春先に新芽を摘み取る「みどり摘み」や秋に行う「もみ上げ」と呼ばれる方法が知られる。

枝は同じ高さから四方八方に伸びる(輪生)、これは苗木でも成木でも変わらないが、前述のように樹形が崩れた老木の太い枝ではよく分からないことがある。主軸(幹として上に伸びる枝)、枝(横に延びる枝)共に先端に数個の冬芽を付け、夏から秋にかけて膨らんでよく目立つ。翌年の春にはこれらの内の一つが幹に他が枝になる。冬芽の大きさ、色や毛の生え具合は種を区別する上で大切な情報である。

成木の樹皮は他の針葉樹に比べて厚く発達し、亀甲状に大きく割れるものが多い。しかし、多くの種の幼木時代、また一部の種では成木でも滑らかであるか、モミやトウヒの様に薄く鱗状にはがれるに留まる。色は一般に褐色で、黒っぽいもの、赤っぽいもの、灰色っぽいものなど様々である。



マツの葉は子葉、初生葉、鱗片葉、尋常葉(針葉)の4種類に分けることができる。このうち、私たちが普段目にするのは尋常葉(針葉)と鱗片葉のみであり、子葉と初生葉は発芽直後のみ見られる。鱗片葉は葉に見えず、以下、「葉」といった場合には特に断りのない限り、私たちが普段使う通りの尋常葉(針葉)を指す。

子葉
胚において形成されており発芽後に最初に開く葉。後述のようにマツの葉は種類によって葉中の維管束の数が違うことが知られているが、子葉においてはいずれの種でも維管束は一つだという[3]。他のマツ科植物と同じく子葉は3枚以上出てくる多子葉植物である。
初生葉
子葉の次に出現する葉であり、縁には鋸歯を有する。
鱗片葉
枝(長枝)を埋め尽くすように生えている三角形の鱗のようなもの、一見すると葉に見えないが葉の一種だという。マツ属を表す特徴の一つ。
尋常葉
短枝と呼ばれる枝の一種に数枚が束生する。いくつかの例外を除き1本の短枝に束生する葉を全部集めると断面は円形になる。すなわち2葉のマツならば個々の葉の断面は中心角が180度の扇形、5葉のマツのそれは中心角72度の扇形になる。

葉はベトナムに分布するP. krempfiiという例外を除いて、細く針のようになっている。葉の長さにも色々あり、僅か3 - 4 cmのバンクスマツ P. banksianaから40cmを超えるようなダイオウマツ (P. palustris) やヒマラヤマツ (P. roxburghii) に至るまで様々なものがある。一般に温暖な地域に分布するものの方が葉の成長期間が長く、長い葉を持つ傾向にあるという[4]。

マツ属の葉は短枝と呼ばれる枝の一種に数枚が束になってつく。その数は個体内での多少の差はあるものの2枚、3枚ないしは5枚が束になって生えていることが多く、種によってその数は決まっている。
日本では二葉松はアカマツ (P. densiflora)、クロマツ (P. thunbergii)、リュウキュウマツ。
五葉松はゴヨウマツ、ヒメコマツ、ハイマツ、チョウセンゴヨウ (P. koraiensis)、ヤツタネゴヨウが知られている。
三葉松は、アメリカ大陸を中心に分布しテーダマツ (P. taeda) やダイオウマツ (P. palustris) などが知られている。日本には3葉のマツは自生していないものの、化石の研究からオオミツバマツ (P. trifolia) と名付けられた種が分布していたことが確認されている。
葉の数による分類は直感的で非常に分かりやすい方法であり、両者には葉の数以外にも多数の違いがあること、遺伝的にも交雑できないことから、分類学的にも古くから認められていた方法である。
さらに、葉の断面を顕微鏡で観察すると維管束が見える。その数は2葉・3葉のマツと5葉のマツで異なるという特徴もよく知られており、一般に2葉・3葉のマツは2つの維管束を持つことから複維管束亜属 (Dipxylon)、5葉のマツは1つの維管束しかないことから単維管束亜属 (Hapxylon) とされてきた。しかしながら、北米やアジアに分布する一部の種は維管束は1つであるが、葉の数は2枚ないしは3枚であり、両者の中庸の形態を持つ。



マツの花は雌雄同株[注釈 1]である。雌花は枝の先端に作られて、小さな球果の形をしている。雄花は枝の根元に作られ、小さなラグビーボールが多数集まった様相を呈すものが多く、色は黄色から赤色までさまざまである。

風媒花であり雄花で作られた花粉は風で、雌花に運ばれて受粉する。花粉は杉などと異なり、二つの風船状の気嚢が付いており風に乗りやすい形状をしている。

雌花は毬花(英語: female cone)などとも呼ばれ、概ね成熟した球果の縮小形をしている。色は赤っぽいものが多い。


マツの球果(松かさ)は鱗片状のもの(種鱗)が集まった形状である。この球果についても形や大きさ、個々の鱗片状の凹凸の状態、表面の棘の有無、熟した時の色合いなどに違いが見られる。形や硬さについても色々あり、2葉・3葉のマツの多くの球果は卵型で硬く種鱗を剥がすのは素手では困難であるが、5葉のマツの球果は細長い円筒形(カプセル型)で比較的柔らかく素手でも容易に分解できるものが多い。ただし、例外もある。


球果と枝とを結ぶ柄(果柄)についても長いものから短いものまでいろいろある。球果が樹上から落ちる際には果柄と球果実の間、もしくは枝と果柄の間に離層が形成されることが条件であるが、どちらに形成されるのかという違いもある。前者の場合、さらに一部の種では球果の種鱗数枚を果柄に残したまま落果するものもあるという。なお、種類によっては離層が形成されにくく、樹上に何年にもわたって球果が残るものもある。また、球果が開く条件は乾燥によるものが多いが、中には火災による高温や動物による摂食や球果の腐敗が条件の種もある。


種子は一般に風散布型で翼を持つが一部持たないものがある。また、翼のあるものであってもその大きさは色々である。特に種子に付く翼の付き方で分類する方法も古くから知られており、葉の維管束だけでなくこれでも2・3葉のマツと5葉のマツをほぼ綺麗に分けられることが知られている。一般に2・3葉のマツは翼と種子を綺麗に分離できるが、5葉のマツは翼の組織が種子内部に入り込んでおり綺麗に分離できない。


生態
アカマツやクロマツなどといった温帯地域のマツは一般に春から初夏にかけて主軸と枝が一節ずつ伸びて(俗に「みどり」といわれる部分)、夏には成長を止める成長様式を見せるものが多い。しかしながら、特に亜熱帯や熱帯に分布する種類では1年間に多節成長するものがある[4]。

バンクスマツ (P. banksiana) やリギダマツ (P. rigida) は早い種類では発芽後数年で花を付け始め、特に雌花の形成が早いという[5]。マツ類は雌花において受粉した後に、胚珠が受精完了するまでの期間が長く、翌年の春から夏になって受精に至る。受精後に球果は急激に成長し同年の秋には熟すというパターンが多い。例外的にメキシコに分布するP. nelsoniiは受粉後に年内に受精し球果が成長を始める他、イタリアカサマツ (P. pinea) のようにさらに1年かかり、受粉後3年目の秋に球果の成熟を迎える種もある[6]。球果が開くタイミングは種によって異なる。アカマツやクロマツは種子が成熟すると、すぐに種鱗が開くようになり湿度に応じて開閉を繰り返す。一方で成熟後数年間開かない、もしくは好適な条件下にならないと開かない(晩生球果、serotinous coneなどと呼ばれる)仕組みを持つものもあり、特に火災時に種を散らす仕組みを持つものが多い。また、チョウセンゴヨウやP. cembraなどのように樹上からは落果するものの自然には決して開かず、動物による摂食、もしくは球果が腐敗することによって種子の散布、発芽へとつながる種もある。

陽樹であり、遷移が未発達の厳しい場所に生えるというイメージが強いが、チョウセンゴヨウ (P. koraiensis) のように動物による種子散布を期待する種は実際に動物が生息するようなある程度遷移の進んだ森林においても苗が成長する。一方で火災によって種子を散布するような種は極めて耐陰性や耐病性が低く、遷移の進んだ状態では更新できないものが多い。厳しい環境下でも生育できるようにマツ属は自身の根に菌類の菌糸を侵入させた、特別な根である菌根を形成する。マツは菌類を通じて土壌中の栄養分や水分の吸収を助けてもらっており、逆に菌類に対しては光合成によって得られた同化産物を分け与えているという共生関係にある[7]。マツと共生して菌根を形成する菌類は多数知られている。「キノコ」として我々が利用できる種も多く、日本ではマツタケ(松茸)、ショウロ(松露)、アミタケなどが特に有名。


マツは様々な動物に利用される。昆虫に対しては餌や隠れ家を提供する。葉は蛾の幼虫やハバチ、樹液はアブラムシやカイガラムシ、木材はカミキリムシ、ゾウムシ、キクイムシやキバチなどの餌として利用される。球果に侵入して中の種子を食べる昆虫もいる。これらのマツに集まる昆虫を目当てにサシガメなどの肉食性昆虫、アリや寄生蜂なども集まってくる。鳥や獣に対しては営巣場所を提供する。カートランドアメリカムシクイ (Setophaga kirtlandii) とバンクスマツ (P. banksiana) のように密接な関係を持つものから、何種もの木の中からマツ類を営巣場所に選ぶといった程度のものまで様々である。また、種子は餌として利用され、特に一部のマツでは顕著である。マツの方でも動物を利用して種子の散布を図ろうとするものが知られている。


微生物や菌類にもマツを利用して生きていく種は多い。前述のように菌類には菌根を形成してマツと共生関係を築くものもある。一方でマツに一方的に被害を与える微生物も多い。何種ものサビキン類やある種の線虫、菌類であってもマツノネクチタケ類、ツチクラゲやナラタケ類 (Armillaria sp.) などは一方的にマツの生体を攻撃して時に枯死させる。


キクイムシ(とその共生菌)の攻撃で枯死したP. contorta

マツを利用する動物の中には菌類や微生物の中には移動能力に乏しく動物を利用するものが知られている。逆に菌類や微生物によって衰弱したマツを昆虫が利用するということも知られており、両者は共生関係にあるとも言える。例えば我が国のマツに大きな被害を与えているマツ材線虫病はマツノザイセンチュウによって引き起こされる病気である。この病原の媒介者であるマツノマダラカミキリは、健全なマツよりも衰弱しているマツに好んで産卵する。線虫の感染によって材線虫病を発症し、衰弱したマツにカミキリは産卵、センチュウはカミキリが羽化する際にカミキリと共に次のマツへと移る。カミキリは線虫の病原性によって産卵場所の増加が、線虫はカミキリによって分布の拡大が利益になる。オーストラリアやニュージーランドで大きな被害を出したノクチリオキバチ (Sirex noctilio) の場合も同様の関係があるが、共生菌はマツを衰弱させるだけでなく、キバチの幼虫の餌としても利用される。キクイムシの仲間も同様の関係を持つものが多い。

更新は一般に実生による。萌芽更新や伏条更新[注釈 2]といった栄養繁殖は多くの種類では一般に行わない。ただし、火災が頻発するような地域に分布する一部の種は萌芽力が発達しており、火災で焼損しても枯死せずに萌芽で再生することがある。また、ハイマツ (P. pumila) のように伏条更新を行うものも知られている。

人工的に繁殖させる場合、挿し木や接ぎ木による繁殖も考えられる。しかし、マツ類は接ぎ木はともかく、挿し木が困難なグループとして昔から知られている[8]。特に挿し穂を採取する母樹の樹齢が高い場合は極めて発根しにくいという報告が多い。挿し木の一種として、挿し穂として長枝ではなく、短枝を使う方法もありハタバザシ(葉束挿し)と呼ばれる。発根はするものの、地上部が成長せずに結局枯れるなどという報告もあるが、地上部の成長に成功している場合もある[9]。

マツは五葉マツ類発疹さび病やマツ材線虫病といった世界的に流行している病害への対策や、他の優良形質の固定も含めて、接ぎ木よりも効率的なクローン技術である挿し木の研究が古くから研究されてきた。前述のように若い個体は発根率が良いことが知られている。しかしながら、若い個体は挿し穂にできる枝が少ないことから優良個体を量産するには課題があった。近年、植物ホルモンの一種、サイトカイニンを投与することでマツの不定芽を活性化され、若い個体でも多数の挿し穂を確保できる技術が開発され、これを利用した挿し木量産技術が確立されつつある。日本ではこれをマツ材線虫病の抵抗性育種に応用することが考えられており、抵抗性の親木から得られた実生苗に病原であるマツノザイセンチュウを接種、接種試験によって枯死しなかった苗にサイトカイニンを投与して、材線虫病抵抗性の挿し穂・挿し木苗を量産することが考えられている。


名前・方言名
マツ(松)の由来は、「(神を)待つ」、「(神を)祀る」や「(緑を)保つ」が転じて出来たものであるなど諸説ある。後述のように東アジア圏では神の下りてくる樹や不老不死の象徴として珍重されることを考えると「待つ」から転じたという説がいかにもそれらしい。英語ではpineと呼ばれ、これはラテン語のpinus(この属の名前としても使われている)に由来する。ラテン語のpinusの由来はタール状のものを指すという。さらにラテン語pinusの由来はギリシア神話に出てくる妖精ピテュス (Πιτυς, Pitys) が由来という説もある。ピテュスは牧羊神パーンから追われた時、松に変身して逃げたという。

和名ではマツ属で無い樹木にも「マツ(松)」の名が充てられることがあり、以下にその例を示す。いずれも針葉樹であるが、マツ属ではない。

トドマツ Abies sachalinensis
漢字表記は椴松。モミ属 (Abies) に属する。
エゾマツ Picea jezoensis
漢字表記は蝦夷松。トウヒ属 (Picea) に属する。
カラマツ Larix kaempferi
漢字表記は落葉松で、その名の通り冬に落葉する珍しい針葉樹。カラマツ属 (Larix) に属する。
ラクウショウ Taxodium distichum
漢字表記は落羽松。これも冬に落葉する針葉樹。スギ科に属し、マツとは科単位で異なる。湿地でも生育できることからヌマスギ(沼杉)の別名を持つ。
ベイマツ Pseudotsuga menziesii
漢字表記は米松。トガサワラ属 (Pseudotsuga) に属する。由来はアメリカ(米国)原産であることから、アメリカでもDouglas fir(ダグラスのモミ)、Oregon pine(オレゴンのマツ)などと呼ばれているが、マツでもモミでもない。
また、マツの形態的特徴(鋭い葉)に由来したマツバギク(松葉菊、Lampranthus spectabilis)やマツバボタン(松葉牡丹、Portulaca grandiflora)などの和名を持つものが、草本植物にも見られるが、もちろんこれらはマツではない。

人間との関わり
景観
種類にもよるが、他の樹木が生えないような岩や砂だらけの荒地でもよく育つ。霧に包まれた険しい岩山に生えるマツは仙人の住む世界(仙境)のような世界を演出し、特に中国の黄山や華山の光景は見事である。海岸地帯においても時に優先種となり、白い砂と青々としたマツの樹冠の対比の美しさは白砂青松などと呼ばれる。これは特に日本で親しまれており松島、天橋立、桂浜、虹ノ松原などが有名。

街路樹としても用いられ、並木道を作り出すこともある。厳しい環境でも育つために砂漠や荒地の緑化用として使われる種もある。日本の白砂青松の名所の中には元々は草本しか生えていなかった、もしくはクスノキやタブノキなどの極相林が成立していた所を極相種の伐採利用と飛砂防止などでクロマツの植栽の結果成立したと見られる所も多い。


庭木や庭園樹などとしても世界的に親しまれている。後述の通りマツは種類が多く、葉が垂れる種、樹皮の色や割れ方が特徴的な種などが自然に揃っている。もちろん、葉に模様が入る改良品種なども植えられる。日本庭園のマツは害虫駆除のためのこも巻き、さらに積雪地では雪の重みによる折損防止のための雪吊された姿を秋から春にかけて見せることが多い。鉢に植えて盆栽として楽しむにも人気の樹種である。厚い樹皮 (bark) がバークチップとして用いられることがある。樹皮(バーク)を発酵させて炭素率を低くし堆肥化させたバーク堆肥は、土壌改良材として使用される。ただし、これはマツだけでなく他の樹種も用いられる。




木材
二・三葉松類と五葉松類でやや性質が異なっており、二・三葉松類の材は一般にやや黄色みを帯びており硬いことから、英語ではhard pine(硬いマツ)やyellow pine(黄色いマツ)などと称される。これに対して五葉松類は白く柔らかいことから、white pine(白いマツ)やsoft pine(軟らかいマツ)と呼ばれる。比重も二葉松類が0.55程度に対して、五葉松類は0.45程度とやや軽いことが多い。

木造建築などにも用いられるが、一般にスギやヒノキと比べて耐腐朽性(たいふきゅうせい)に劣るとされており使いどころを選ぶ。一般に二葉松は建材として柱や梁に用い、より軟らかい五葉松類の材は水道用木管、木型、曲物、塗物の下地など柱と比べて高度な加工が必要なものに用いられるという[10]。樹脂が多く心材色の濃いものは肥松(こえまつ)と呼ばれて珍重され、羽目板や床の間など直接目に触れる箇所に使われるという[11]。

1940年、戦時色が強くなった日本では、特定の樹種の木材について用途指定がなされたが、マツの小丸太の用途は軍需用のほか坑木、パルプ、包装用資材とされていた[12]。また、鉄道の枕木としても使われていたが[13]、日本の場合防腐処理をしない場合の寿命は3-5年だといい、耐朽性のあるクリ(7-9年)などと比べると半分程度の寿命しかなかった[13]。

木材輸入の自由化、スギ林の放棄、防腐・加工技術の進展などで外国からの輸入は増えている。英語でマツを指すpineに因んでpine材と呼ばれることも多い。これはヨーロッパからの輸入住宅のフローリングなどに使われている場合は、ヨーロッパアカマツ(P. sylvestris)を指していることが多い。北米からの輸入の場合は、2×4建築の構造材やホームセンターに部材として販売されているカナダ産の白っぽい木肌のSPF材、これは特にコントルタマツ (P. contorta) が多いとされる。また、ボウリング場のレーンなどはアメリカ産の黄色っぽい木肌のSouthern Yellow Pine(SYP, 一般にSYPはテーダマツ、ダイオウマツ、エキナタマツ、スラッシュマツ等複数の種を含む)を指す場合もある。他の北米産としては家具用としてポンデローサマツ (P. ponderosa) なども入ってきているようである。北米産のものは「米松(べいまつ)」、国産のものは「地松(ぢまつ)」と総称することもある。

また、ニュージーランドは北米産のマツ、特にラジアータマツ (P. radiata) に頼る林業を行っていることで有名で、ここから輸入される材はほぼこれに限られる。


燃料
他の木材と比べ可燃性の樹脂を多く含み、マッチ1本で着火できるため以前は焚き付けに用いられた。分離した樹脂である松脂もよく燃える燃料として使用された。第二次世界大戦中の日本では、掘り出した根から松脂を採取、松根油を採取し、航空機の燃料に用いようとしたことがある。

他の木材と比較し単位重量当りの燃焼熱量が高いことから、陶磁器を焼き上げる登り窯や金属加工の鍛冶用の炭として珍重される[10]。特にマツ材を急激に炭化させた松炭は熱量が多く鍛冶用の炭として適する[10]。たいまつが漢字で「松明」と書くこともあるように明かりとしても重要であった。

また、マツを燃やした際に出る煤を集めて固めると墨を作ることができる。これは松煙墨と呼ばれる。また、原理は不明だが、明治時代に発行された書物では油紙に墨で文字を書くとき、青い松葉を数本水に浸した水で墨をすったもので書くとよい[14]、とされている。




食用
マツの種子は一般に無害であり松の実と呼ばれ多くの種で食用となる。特にチョウセンゴヨウ (P. koraiensis) やその近縁種、イタリアカサマツ (P. pinea)、北アメリカ西部に生える英名Pinyon Pinesと呼ばれるグループの種子は大きく経済的価値が高い。

ジンの香りづけのネズミサシ、杉樽で作る日本酒のようにマツ類も香料としての利用がされる。中国の紅茶の正山小種は、タイワンアカマツなどの木材や樹皮で燻して独特の香りを付けて作られる。韓国には「松餅(송편、ソンピョン)」と呼ばれる松の香りを付けた蒸し餅が作られており、秋夕、いわゆるお盆の時期に食べる風習があるという。花粉もクッキーなどに混ぜられて食べられる。マツ類の若葉を砂糖水中に浸しておくと、葉に付着している細菌が炭酸ガスを発生させサイダーになる。サイダー自体への香りづけした飲料も日本や韓国で見られる。葉を煮出して茶として飲むのは洋の東西問わずに見られ、松葉茶として飲まれ英語ではpine teaやtallstruntと呼ばれる。若葉で茶を作ればビタミンAとCに富む。ロシアでは球果がまだ未成熟なうちに収穫したものを砂糖で煮付けてヴァレニエにする。

樹脂である松脂も香料として使うこともあり、フランスなどではマツの香りのする飴が作られており、ギリシャではレッチーナ(Retsina, ギリシア文字:Ρετσίνα)と呼ばれる着香ワインが作られている。Retsinaはワインを発酵させる樽が発明される前からあり、松脂はアンフォラと呼ばれる壺に入れられたブドウ果汁が酸化しないようにふたの役目をしたという。


殻を割って取りだしたマツの実



マツの実とバジルを用いたソース、イタリアのペスト・ジェノヴェーゼ



韓国の餅料理、송편(ソンピョン)



ギリシアのRestina

また、マツを直接食べるわけでないが、マツ林に生えるキノコは多く、中には食用になる種もある。キノコの中にはマツの根とキノコの菌糸が結び付きマツと栄養のやり取りを行う種もあり、これらのキノコを食べることは間接的にマツを食べているともいえる。我が国ではその名にもマツ(松)が入るもマツタケ(松茸)やショウロ(松露)といった種が特に有名。マツと共生関係を結ぶ種は多く複数の科に渡って知られる。


日本の秋の味覚の代表であるマツタケ(キシメジ科)



半分地中に埋まるキノコ、ショウロ(ショウロ科)



アミタケ(イグチ科)

薬用
長野県開田村地方には松脂を油で溶いて、あかぎれ薬にする伝統がある[15]。花粉は、中国で肌の防乾湿、防汗、止血、伝染性膿痂疹、びらんなどに使用される[16]。 フランスカイガンショウ (P. pinstar) の樹皮から抽出されるピクノジェノール (Pycnogenol) を多く含むエキスは、サプリメントに利用されている(しかし、コクラン共同計画では有効成分のエビデンスが不十分であるとの報告がある[17])。

樹脂
詳細は「松脂」を参照
マツの樹脂は松脂(まつやに)と呼ばれる。樹木の樹脂は樹脂道という特殊な組織で生産され、昆虫や病原菌から植物を守る。マツ類は他の針葉樹に比べて樹脂道を多く持ち、枝や葉を折るだけでも多量に滲み出る。Strobus亜属の種では球果にも多量にこびり付くことが多い。生成当初は透明から淡黄色で流動性に富むが、揮発成分が減少するにつれ粘り気が増え固化し、色も酸化によって黄色や茶色に変わる。

松脂はテルペン等の揮発成分を大量に含み水には溶けない。松脂の揮発成分は特有の芳香があり前述のように香料に利用されることもある。また、松脂を蒸留するとロジン、テレピン油、ピッチなどの成分が得られ、燃料、粘着剤、生薬、香料、滑り止め、紙の添加剤などに用いられる。ロジンは、マツの根などからも得ることができる。詳細はロジン、テレピン油を参照。

経済的な採取は幹に切り込みを入れる方法で行われ、現在は中国などのアジアを中心に行われる。マツの他にも針葉樹を中心に多くの樹種で樹脂は利用されるが、マツ類に比べて滲出量が少なく世界的に広く利用される種は無い。


松脂採取のために樹皮に切れ込みを入れる



採取風景



アリが入った琥珀



チェロ用の松脂

文化
象徴
東アジア圏では、冬でも青々とした葉を付ける松は不老長寿の象徴とされ、同じく冬でも青い竹、冬に花を咲かせる梅と合わせて中国では「歳寒三友」、日本では「松竹梅」と呼ばれおめでたい樹とされる。また、魔除けや神が降りてくる樹としても珍重され、正月に家の門に飾る門松には神を出迎えるという意味があるという。

イタリアではマツを珍重するという。ちなみにドイツでは同じマツ科でもモミ属の木を不死や魔除けの象徴として珍重する。クリスマスツリーは一般にモミ属を使うが、これもドイツ発祥の風習だといわれる。しかし、モミ属はマツ属に比べて分布域が限られるために、入手の難しい北欧、イギリス、アメリカ南部、オセアニアなどではマツ属の樹木を使うこともあるという。ドイツ国内にはモミを町の紋章とする自治体が多いが、イタリアに近いドイツ南部の町アウクスブルク (Augsburg) の紋章はマツの球果(松かさ)である。


日本の正月に見られる門松


Long stick of red and white candy sold at children's festivals,chitose-ame,katori-city,japan.JPG
千歳飴に描かれる松竹梅



歳寒三友として描かれる松と竹と梅



マツの葉と実を使ったクリスマス飾り、イギリス



バチカン美術館にある巨大な松かさの像



アウクスブルクの紋章

芸能
能舞台には背景として必ず描かれており(松羽目)、 歌舞伎でも能、狂言から取材した演目の多くでこれを使い、それらを「松羽目物」というなど、日本の文化を象徴する樹木ともなっている。松に係わる伝説も多く、羽衣伝説など様々ある。

松は日本や中国の貴族の位の一つである「大夫」と繋がりがある。これは秦の始皇帝が雨宿りに使った松に爵位を授けたことに因み、大夫を「松の位」ともいう。後世では貴族の位よりも遊女の最高位である大夫すなわち太夫(たゆう)を指すことで知られるようになった。遊女を太夫と称するのは、古くに猿楽(能楽)を遊女が演じた時、座を率いる主だった者が本来五位の通称であった大夫(太夫)を男の能楽師に倣って称したことが始まりだという。邦楽の曲中ではしばしば「松」が松の位の遊女を連想・暗示させるような表現をとっているものがある。


能舞台の背景に描かれる松

苗字・地名
松の字を使った苗字や地名は日本産樹木では杉と共に比較的目にすることが多い。

遊び
日本の子供の遊びにV字型の二葉のマツの葉を2つ組み合わせ、二人で互いに引いて遊ぶ遊びがあり松葉相撲などと呼ばれる。根元部分(袴や鞘)と呼ばれる部分を引き裂かれた方が負けである。似たような遊びをする植物にスミレ類やオオバコなどが良く知られる。球果は松かさや松ぼっくりと称され工作に使われる。

松は和歌にも古来より取り上げられている。特に古くは「子の日の小松引き」(新年最初の子の日に小さいマツを根ごと引き抜いてくる)という行事に合わせて和歌を詠むことがあり、それらの和歌が残る。また高砂の松、尾上の松などが歌枕として詠まれ、特に高砂の松はのちに謡曲『高砂』の題材とされ名高い。

ときはなる まつのみどりも はるくれば いまひとしほの いろまさりけり(『古今和歌集』巻第一・春歌上 源宗于)
たれをかも しるひとにせん たかさごの まつもむかしの ともならなくに(同上巻第十七・雑上 藤原興風)
ちとせまで かぎれるまつも けふよりは きみにひかれて よろづよやへん(『拾遺和歌集』巻第一・春 大中臣能宣)
『高砂』(謡曲)
『老松』(同上)
『末の松』(箏曲)
『松づくし』(上方唄、端唄)(地歌箏曲)作曲者不詳
『松尽し』(地歌、箏曲)藤永検校作曲
『松風』(地歌、箏曲)岸野次郎三作曲
『新松尽し』(地歌、箏曲)松浦検校作曲
『松の寿』(地歌、箏曲)在原勾当作曲
『松竹梅』(地歌、箏曲)三つ橋勾当作曲
『根曳の松』(地歌、箏曲)三つ橋勾当作曲
『老松』(地歌、箏曲)松浦検校作曲
『尾上の松』(地歌、箏曲)作曲者不詳、宮城道雄箏手付
『松の栄』(地歌、箏曲)菊塚検校作曲
『松風』(山田流箏曲)山田検校作曲
『松の栄』(山田流箏曲)二世山登検校作曲
『老松』(長唄)杵屋六三郎作曲
『松の緑』(長唄)四世杵屋六三郎作曲
『松襲』(一中節)初代菅野序遊作曲
『松の羽衣』(一中節)
『老松』(常磐津)初世常磐津文字太夫作曲
『老松』(清元)富本豊前掾作曲
『老松』(地歌、箏曲)菊岡検校作曲
『松』(箏曲)宮城道雄作曲
『ローマの松』(交響詩)レスピーギ作曲
『痩松(やせまつ)』(狂言)
『富士松』(狂言)
『松の緑』(長唄)
『松の葉』(三味線歌謡集)