【英語名:Daisy】

この花は、イギリス人の先祖のアングロ・サクソン人には「Daezeseze」と呼ばれていたようです。学名の通り、ベリス・ペレンニス(Bellis perennis)と呼ばれてもいます。15世紀には、「Dayses」として、「生食用の植物」と分類されていたといいます。初期の吟遊詩人の詩の中にヒナギクのつぼみは、飢えを抑えるのによいという叙述もあるそうです。


英名のデイジー「Daisy」は、デイズ・アイ“Day's Eye”で「日の眼」のこと。
この花は太陽の光がさすと開き、曇り日や夜には閉じるので、名前もそれによってつけられたようです。

【欧米文学に登場するデージーを知る】

<シェイクスピアとデージー>

昔から無邪気の象徴として愛され、シェイクスピアは「その白い衣は無垢を表わす」といいました。

「ハムレット」の中で、川辺で花輪を作り、その花輪と共に流れに身をまかせたオフィリアの、彼女が摘んだ花のひとつは雛菊でした。
しかし、悲劇「ハムレット」のオフィーリアのデイジーは「欺瞞」「虚偽」「不実」を意味するとされ、その後に続くスミレの「忠実」と対になります。

<ハムレットの宮廷場面から>

宮廷に花を持って現れた狂えるオフィーリアは、兄のレアティーズにローズマリーとパンジー、王にはフェンネルとオダマキ、そして王妃にはヘンルーダを与えると、今度はデージー(ヒナギク)を取り出します。(「ハムレット」第4幕5場)

<以上>

オフィーリアの実ることのなかった「悲しい恋」のデイジーとの解釈もあります。もちろん、オフィーリアの純真さ、無垢な恋という解釈も成り立ちます。

またデイジーは、後にオフィーリアが川で溺れ死ぬ間際に作っていた花冠の花としても登場します。

<「王妃」に登場する花冠の花としてのデージー>

王妃

オフィーリアはその柳の枝にキンポウゲ、イラクサ、デージー、
紫のランを添えた風変わりな花冠を作りました。(「ハムレット」第4幕第7場)

オフィーリアは小川のほとりにはえた柳の枝に、作った花冠をかけようとして、その枝にのぼったところ、その枝が折れ、川に落ちて、溺れ死んでしまったのです。
溺れる彼女の顔には不幸せなど微塵もなく、賛美歌を歌いながら、人魚のようにたゆたい、そして水にのまれていったそうです。

<以上>


<ロバート・バーンズの詩に登場するデージー>>本サイト内の詳細研究は、こちら

パーンズは「紅で未染めし、ささやかな、おとなしい花」といい、「雛菊は無邪気と飾り気のない様を示すと」詠んでいます。

<ウィリアム・ワーズワースの詩に登場するデージー>

ワーズワースは、上記のロバートバーンズの影響下で、詩作したといわれています。雛菊についても同様の影響下で詠われた題材と言えます。具体的には、「雛菊に」という題で美しい詩を作っています。
なお、すてきな少女のことを「雛菊乙女」と表現するなどしています。
雛菊の花には、このような可憐なイメージしか思い浮かびませんが、伝説では、不倫な恋をさけて死んだ乙女の悲しい運命から生まれた花になっています。

<ローマ神話でのデージー>

ローマ神話によりますと、ペリデスは美しい森の精でした。
ある日、愛を誓った恋人のエフィジウスと楽しく踊っていると、それを見た果樹園の守神ヴェルッムヌスが、よこしまな心をおこして、ペリデスを追いかけました。
ペリデスは必死になって逃げました。
恋人のエフィジウスは、ただおろおろするばかり。ヴェルッムスは守神という権力をもって彼女を奪おうというのですから、若い彼が彼女を守ることは困難でした。

森の小道から、いばらの藪へ、藪を抜けて草の茂みへ、そして、とうとう捕えられてしまいました。
けれどペリデスは守神の腕の中でもがきながら、愛する人に向って叫びました
「エフィジウス…あたしの愛したのは、あなた一人…あたしは、あなたのための花なのです」。

そして、そのまま一本の花になってしまいました。
それが雛菊の花だったのです。

<アンデルセン童話でのデージー>

またアンデルセンの童話の「雛菊」は、この花とひばりの美しい物語です。

またこの花には可愛らしい伝説があります。
赤ちゃんの心臓に死神の指が静かに置かれ、その赤ちゃんが神の御元に、エンゼルによって連れて行かれる時、赤ちゃんは、地上に残されて自分のために悲しむお母さんを、なぐさめたいと切に思います。
そこで赤ちゃんは死んだ自分の記念のために、また生きている人たちを元気づけるために、天国から新しい可愛らしい花をまき散らします。
ある日のこと、男の赤ちゃんを亡くしたマルピーニアは女友だちに囲まれて泣いていました。
と、にわかに、彼女らの一人がいいました、「見てごらん、見てごらん、マルピーニア目を上げて!
今あなたの赤ちゃんを私は見たの!虹色の雲の中の星で飾られたベットに沢山の花が積んであって、そこからあの子が手をのばして花を撒いているのを見たの!ここに その花が1つあるわ」。

そこでマルビーニアが目を上げて見ると、牧場の上を吹いていくそよ風にゆられて、沢山の少さな花が咲いていました。
それはまるで緑の草の中で遊んでいる子供たちのようでした。それを見ると彼女の心はやすらぎをおぼえるのでした。

<この項目、続く>
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