【万葉集の梅を詠った和歌を概観する】
<万葉集に頻繁に登場する「梅」>
万葉集に登場する植物・花で「梅」は、萩についで多く登場しています。万葉集に登場する植物の概要は、こちらの園芸文化基礎セミナー用の講義資料をご覧ください。この文献では、万葉集で最も多く詠われた萩(138首)に次いで、梅(118首)多く詠われています。
原文での「梅」の表現としては、鳥梅 梅 宇米 汙米 宇梅 有米 于梅などが使われています。
もちろん、「有米」などは、「うめ」と呼んでいるだけでなく、「あらめ」という表現にも使われます。「有米」と呼んでいるのは、大伴旅人の1首のみです。
以下に、その全和歌118首をご紹介します。
【万葉集に見る梅の歌】
注:通し番号、掲載巻と歌番号、訓読み、原文の順に並べています。
1
03/0392
ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを
烏珠之 其夜乃梅乎 手忘而 不折来家里 思之物乎
2
03/0398
妹が家に咲きたる梅のいつもいつもなりなむ時に事は定めむ
妹家尓 開有梅之 何時毛々々々 将成時尓 事者将定
3
03/0399
妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなばかもかくもせむ
妹家尓 開有花之 梅花 實之成名者 左右将為
4
03/0400
梅の花咲きて散りぬと人は言へど我が標結ひし枝にあらめやも
梅花 開而落去登 人者雖云 吾標結之 枝将有八方
5
03/0453
我妹子が植ゑし梅の木見るごとに心咽せつつ涙し流る
吾妹子之 殖之梅樹 毎見 情咽都追 涕之流
6
04/0786
春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも
春之雨者 弥布落尓 梅花 未咲久 伊等若美可聞
7
04/0788
うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする
浦若見 花咲難寸 梅乎殖而 人之事重三 念曽吾為類
8
04/0792
春雨を待つとにしあらし我がやどの若木の梅もいまだふふめり
春雨乎 待<常>二師有四 吾屋戸之 若木乃梅毛 未含有
9
05/0815
正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ[大貳紀卿]
武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎<岐>都々 多努之岐乎倍米[大貳紀卿]
10
05/0816
梅の花今咲けるごと散り過ぎず我が家の園にありこせぬかも[少貳小野大夫]
烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛[少貳小野大夫]
11
05/0817
梅の花咲きたる園の青柳は蘰にすべくなりにけらずや[少貳粟田大夫]
烏梅能波奈 佐吉多流僧能々 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜[少貳粟田大夫]
12
05/0818
春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ[筑前守山上大夫]
波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武[筑前守山上大夫]
13
05/0819
世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にもならましものを[豊後守大伴大夫]
余能奈可波 古飛斯宜志恵夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母 奈良麻之勿能怨[豊後守大伴大夫]
14
05/0820
梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり[筑後守葛井大夫]
烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理[筑後守葛井大夫]
15
05/0821
青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし[笠沙弥]
阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能弥弖能々知波 知利奴得母與斯[笠沙弥]
16
05/0822
我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも[主人]
和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母[主人]
17
05/0823
梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ[大監伴氏百代]
烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都々[大監伴氏百代]
18
05/0824
梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも[小監阿氏奥嶋]
烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃々 多氣乃波也之尓 <于>具比須奈久母[小監阿氏奥嶋]
19
05/0825
梅の花咲きたる園の青柳を蘰にしつつ遊び暮らさな[小監土氏百村]
烏梅能波奈 佐岐多流曽能々 阿遠夜疑遠 加豆良尓志都々 阿素i久良佐奈[小監土氏百村]
20
05/0826
うち靡く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分かむ[大典史氏大原]
有知奈i久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武[大典史氏大原]
21
05/0827
春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に[小典山氏若麻呂]
波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓[小典山氏若麻呂]
22
05/0828
人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも[大判事<丹>氏麻呂]
比等期等尓 乎理加射之都々 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母[大判事<丹>氏麻呂]
23
05/0829
梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや[藥師張氏福子]
烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良<婆那> 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也[藥師張氏福子]
24
05/0830
万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし[筑前介佐氏子首]
萬世尓 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子[筑前介佐氏子首]
25
05/0831
春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに[壹岐守板氏安麻呂]
波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓[壹岐守板氏安麻呂]
26
05/0832
梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし[神司荒氏稲布]
烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯[神司荒氏稲布]
27
05/0833
年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ[大令史野氏宿奈麻呂]
得志能波尓 波流能伎多良婆 可久斯己曽 烏梅乎加射之弖 多<努>志久能麻米[大令史野氏宿奈麻呂]
28
05/0834
梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし[小令史田氏肥人]
烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛々等利能 己恵能古保志枳 波流岐多流良斯[小令史田氏肥人]
29
05/0835
春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びに相見つるかも[藥師高氏義通]
波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素i尓 阿比美都流可母[藥師高氏義通]
30
05/0836
梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり[陰陽師礒氏法麻呂]
烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布尓志阿利家利[陰陽師礒氏法麻呂]
31
05/0838
梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて[大隅目榎氏鉢麻呂]
烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖[大隅目榎氏鉢麻呂]
32
05/0839
春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る[筑前目田氏真上]
波流能努尓 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流[筑前目田氏真上]
33
05/0840
春柳かづらに折りし梅の花誰れか浮かべし酒坏の上に[壹岐目村氏彼方]
<波流>楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓[壹岐目村氏彼方]
34
05/0841
鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ[對馬目高氏老]
于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由[對馬目高氏老]
35
05/0842
我がやどの梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ[薩摩目高氏海人]
和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇i都々 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美[薩摩目高氏海人]
36
05/0843
梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ[土師氏御<道>]
宇梅能波奈 乎理加射之都々 毛呂比登能 阿蘇夫遠美礼婆 弥夜古之叙毛布[土師氏御<道>]
37
05/0844
妹が家に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも[小野氏國堅]
伊母我陛邇 由岐可母不流登 弥流麻提尓 許々陀母麻我不 烏梅能波奈可毛[小野氏國堅]
38
05/0845
鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため[筑前拯門氏石足]
宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米[筑前拯門氏石足]
39
05/0846
霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも[小野氏淡理]
可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛[小野氏淡理]
40
05/0849
残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも
能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿
41
05/0850
雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも
由吉能伊呂遠 有<婆>比弖佐家流 有米能波奈 伊麻<左>加利奈利 弥牟必登母我聞
42
05/0851
我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも
和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母
43
05/0852
梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ [一云 いたづらに我れを散らすな酒に浮べこそ]
烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽 [一云 伊多豆良尓 阿例乎知良須奈 左氣尓<宇>可倍許曽]
44
05/0864
後れ居て長恋せずは御園生の梅の花にもならましものを
於久礼為天 那我古飛世殊波 弥曽能不乃 于梅能波奈尓<忘> 奈良麻之母能乎
45
06/0949
梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに
梅柳 過良久惜 佐保乃内尓 遊事乎 宮動々尓
46
06/1011
我が宿の梅咲きたりと告げ遣らば来と言ふに似たり散りぬともよし
我屋戸之 梅咲有跡 告遣者 来云似有 散去十方吉
47
08/1423
去年の春いこじて植ゑし我がやどの若木の梅は花咲きにけり
去年春 伊許自而殖之 吾屋外之 若樹梅者 花咲尓家里
48
08/1426
我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば
吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
49
08/1434
霜雪もいまだ過ぎねば思はぬに春日の里に梅の花見つ
霜雪毛 未過者 不思尓 春日里尓 梅花見都
50
08/1436
含めりと言ひし梅が枝今朝降りし沫雪にあひて咲きぬらむかも
含有常 言之梅我枝 今旦零四 沫雪二相而 将開可聞
51
08/1437
霞立つ春日の里の梅の花山のあらしに散りこすなゆめ
霞立 春日之里 梅花 山下風尓 落許須莫湯目
52
08/1438
霞立つ春日の里の梅の花花に問はむと我が思はなくに
霞立 春日里之 梅花 波奈尓将問常 吾念奈久尓
53
08/1445
風交り雪は降るとも実にならぬ我家の梅を花に散らすな
風交 雪者雖零 實尓不成 吾宅之梅乎 花尓令落莫
54
08/1452
闇ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや
闇夜有者 宇倍毛不来座 梅花 開月夜尓 伊而麻左自常屋
55
08/1640
我が岡に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも
吾岳尓 盛開有 梅花 遺有雪乎 乱鶴鴨
56
08/1641
沫雪に降らえて咲ける梅の花君がり遣らばよそへてむかも
沫雪尓 所落開有 梅花 君之許遣者 与曽倍弖牟可聞
57
08/1642
たな霧らひ雪も降らぬか梅の花咲かぬが代にそへてだに見む
棚霧合 雪毛零奴可 梅花 不開之代尓 曽倍而谷将見
58
08/1644
引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入れつ染まば染むとも
引攀而 折者可落 梅花 袖尓古寸入津 染者雖染
59
08/1645
我が宿の冬木の上に降る雪を梅の花かとうち見つるかも
吾屋前之 冬木乃上尓 零雪乎 梅花香常 打見都流香裳
60
08/1647
梅の花枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪ぞ降り来る
梅花 枝尓可散登 見左右二 風尓乱而 雪曽落久類
61
08/1648
十二月には沫雪降ると知らねかも梅の花咲くふふめらずして
十二月尓者 沫雪零跡 不知可毛 梅花開 含不有而
62
08/1649
今日降りし雪に競ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり
今日零之 雪尓競而 我屋前之 冬木梅者 花開二家里
63
08/1651
沫雪のこのころ継ぎてかく降らば梅の初花散りか過ぎなむ
沫雪乃 比日續而 如此落者 梅始花 散香過南
64
08/1652
梅の花折りも折らずも見つれども今夜の花になほしかずけり
梅花 折毛不折毛 見都礼杼母 今夜能花尓 尚不如家利
65
08/1656
酒杯に梅の花浮かべ思ふどち飲みての後は散りぬともよし
酒杯尓 梅花浮 念共 飲而後者 落去登母与之
66
08/1660
梅の花散らすあらしの音のみに聞きし我妹を見らくしよしも
梅花 令落冬風 音耳 聞之吾妹乎 見良久志吉裳
67
08/1661
久方の月夜を清み梅の花心開けて我が思へる君
久方乃 月夜乎清美 梅花 心開而 吾念有公
68
10/1820
梅の花咲ける岡辺に家居れば乏しくもあらず鴬の声
梅花 開有岳邊尓 家居者 乏毛不有 鴬之音
69
10/1833
梅の花降り覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ
梅花 零覆雪乎 L持 君令見跡 取者消管
70
10/1834
梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに白雪庭に降りしきりつつ
梅花 咲落過奴 然為蟹 白雪庭尓 零重管
71
10/1840
梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る
梅枝尓 鳴而移<徙> 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落
72
10/1841
山高み降り来る雪を梅の花散りかも来ると思ひつるかも [一云 梅の花咲きかも散ると]
山高三 零来雪乎 梅花 <落>鴨来跡 念鶴鴨 [一云 梅花 開香裳落跡]
73
10/1842
雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付きて家居せる君
除雪而 梅莫戀 足曳之 山片就而 家居為流君
74
10/1853
梅の花取り持ち見れば我が宿の柳の眉し思ほゆるかも
梅花 取持見者 吾屋前之 柳乃眉師 所念可聞
75
10/1854
鴬の木伝ふ梅のうつろへば桜の花の時かたまけぬ
鴬之 木傳梅乃 移者 櫻花之 時片設奴
76
10/1856
我がかざす柳の糸を吹き乱る風にか妹が梅の散るらむ
我刺 柳絲乎 吹乱 風尓加妹之 梅乃散覧
77
10/1857
年のはに梅は咲けどもうつせみの世の人我れし春なかりけり
毎年 梅者開友 空蝉之 <世>人<我>羊蹄 春無有来
78
10/1858
うつたへに鳥は食まねど縄延へて守らまく欲しき梅の花かも
打細尓 鳥者雖<不>喫 縄延 守巻欲寸 梅花鴨
79
10/1859
馬並めて多賀の山辺を白栲ににほはしたるは梅の花かも
馬並而 高山<部>乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨
80
10/1862
雪見ればいまだ冬なりしかすがに春霞立ち梅は散りつつ
見雪者 未冬有 然為蟹 春霞立 梅者散乍
81
10/1871
春されば散らまく惜しき梅の花しましは咲かずふふみてもがも
春去者 散巻惜 梅花 片時者不咲 含而毛欲得
82
10/1873
いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む
何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 <梅>花将見
83
10/1883
ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集へる
百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有
84
10/1900
梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてり
梅花 咲散苑尓 吾将去 君之使乎 片待香花光
85
10/1904
梅の花 しだり柳に 折り交へ 花に供へば 君に逢はむかも
梅花 四垂柳尓 折雜 花尓供養者 君尓相可毛
86
10/1906
梅の花我れは散らさじあをによし奈良なる人も来つつ見るがね
梅花 吾者不令落 青丹吉 平城之人 来管見之根
87
10/1918
梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君が廬りせるらむ
梅花 令散春雨 多零 客尓也君之 廬入西留良武
88
10/1922
梅の花咲きて散りなば我妹子を来むか来じかと我が松の木ぞ
梅花 咲而落去者 吾妹乎 将来香不来香跡 吾待乃木曽
89
10/2325
誰が園の梅の花ぞもひさかたの清き月夜にここだ散りくる
誰苑之 梅花毛 久堅之 消月夜尓 幾許散来
90
10/2326
梅の花まづ咲く枝を手折りてばつとと名付けてよそへてむかも
梅花 先開枝<乎> 手折而者 L常名付而 与副手六香聞
91
10/2327
誰が園の梅にかありけむここだくも咲きてあるかも見が欲しまでに
誰苑之 梅尓可有家武 幾許毛 開有可毛 見我欲左右手二
92
10/2328
来て見べき人もあらなくに我家なる梅の初花散りぬともよし
来可視 人毛不有尓 吾家有 梅<之>早花 落十方吉
93
10/2329
雪寒み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね
雪寒三 咲者不開 梅花 縦比来者 然而毛有金
94
10/2330
妹がためほつ枝の梅を手折るとは下枝の露に濡れにけるかも
為妹 末枝梅乎 手折登波 下枝之露尓 沾<尓>家類可聞
95
10/2335
咲き出照る梅の下枝に置く露の消ぬべく妹に恋ふるこのころ
咲出照 梅之下枝<尓> 置露之 可消於妹 戀頃者
96
10/2344
梅の花それとも見えず降る雪のいちしろけむな間使遣らば [一云 降る雪に間使遣らばそれと知らなむ]
梅花 其跡毛不所見 零雪之 市白兼名 間使遣者 [一云 零雪尓 間使遣者 其将知<奈>]
97
10/2349
我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て
吾屋戸尓 開有梅乎 月夜好美 夕々令見 君乎祚待也
98
14/3360
伊豆の海に立つ白波のありつつも継ぎなむものを乱れしめめや
伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 <美>太礼志米梅楊
99
17/3901
み冬継ぎ春は来たれど梅の花君にしあらねば招く人もなし
民布由都藝 芳流波吉多礼登 烏梅能芳奈 君尓之安良祢婆 遠<久>人毛奈之
100
17/3902
梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽かにせむ
烏梅乃花 美夜万等之美尓 安里登母也 如此乃未君波 見礼登安可尓勢牟
101
17/3903
春雨に萌えし柳か梅の花ともに後れぬ常の物かも
春雨尓 毛延之楊奈疑可 烏梅乃花 登母尓於久礼奴 常乃物能香聞
102
17/3904
梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは惜しきものなり
宇梅能花 伊都波乎良自等 伊登波祢登 佐吉乃盛波 乎思吉物奈利
103
17/3905
遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば思ひなみかも
遊内乃 多努之吉庭尓 梅柳 乎理加謝思底<婆> 意毛比奈美可毛
104
17/3906
御園生の百木の梅の散る花し天に飛び上がり雪と降りけむ
御苑布能 百木乃宇梅乃 落花之 安米尓登妣安我里 雪等敷里家牟
105
18/4041
梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてら
宇梅能波奈 佐伎知流曽能尓 和礼由可牟 伎美我都可比乎 可多麻知我底良
106
18/4134
雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむはしき子もがも
由吉<乃>宇倍尓 天礼流都久欲尓 烏梅能播奈 乎<理>天於久良牟 波之伎故毛我母
107
19/4174
春のうちの楽しき終は梅の花手折り招きつつ遊ぶにあるべし
春裏之 樂終者 梅花 手折乎伎都追 遊尓可有
108
19/4238
君が行きもし久にあらば梅柳誰れとともにか我がかづらかむ
君之徃 若久尓有婆 梅柳 誰与共可 吾縵可牟
109
19/4241
春日野に斎く三諸の梅の花栄えてあり待て帰りくるまで
春日野尓 伊都久三諸乃 梅花 榮而在待 還来麻泥
110
19/4277
袖垂れていざ我が園に鴬の木伝ひ散らす梅の花見に
袖垂而 伊射吾苑尓 鴬乃 木傳令落 梅花見尓
111
19/4278
あしひきの山下ひかげかづらける上にやさらに梅をしのはむ
足日木乃 夜麻之多日影 可豆良家流 宇倍尓也左良尓 梅乎之<努>波牟
112
19/4282
言繁み相問はなくに梅の花雪にしをれてうつろはむかも
辞繁 不相問尓 梅花 雪尓之乎礼C 宇都呂波牟可母
113
19/4283
梅の花咲けるが中にふふめるは恋か隠れる雪を待つとか
梅花 開有之中尓 布敷賣流波 戀哉許母礼留 雪乎待等可
114
19/4287
鴬の鳴きし垣内ににほへりし梅この雪にうつろふらむか
鴬能 鳴之可伎都尓 <々>保敝理之 梅此雪尓 宇都呂布良牟可
115
20/4496
恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける
宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅<能> 知利須具流麻O 美之米受安利家流
116
20/4497
見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ
美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴
117
20/4500
梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ
宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布
118
20/4502
梅の花咲き散る春の長き日を見れども飽かぬ礒にもあるかも
烏梅能波奈 左伎知流波流能 奈我伎比乎 美礼杼母安加奴 伊蘇尓母安流香母
<和歌一覧、以上>
<万葉集に頻繁に登場する「梅」>
万葉集に登場する植物・花で「梅」は、萩についで多く登場しています。万葉集に登場する植物の概要は、こちらの園芸文化基礎セミナー用の講義資料をご覧ください。この文献では、万葉集で最も多く詠われた萩(138首)に次いで、梅(118首)多く詠われています。
原文での「梅」の表現としては、鳥梅 梅 宇米 汙米 宇梅 有米 于梅などが使われています。
もちろん、「有米」などは、「うめ」と呼んでいるだけでなく、「あらめ」という表現にも使われます。「有米」と呼んでいるのは、大伴旅人の1首のみです。
以下に、その全和歌118首をご紹介します。
【万葉集に見る梅の歌】
注:通し番号、掲載巻と歌番号、訓読み、原文の順に並べています。
1
03/0392
ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを
烏珠之 其夜乃梅乎 手忘而 不折来家里 思之物乎
2
03/0398
妹が家に咲きたる梅のいつもいつもなりなむ時に事は定めむ
妹家尓 開有梅之 何時毛々々々 将成時尓 事者将定
3
03/0399
妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなばかもかくもせむ
妹家尓 開有花之 梅花 實之成名者 左右将為
4
03/0400
梅の花咲きて散りぬと人は言へど我が標結ひし枝にあらめやも
梅花 開而落去登 人者雖云 吾標結之 枝将有八方
5
03/0453
我妹子が植ゑし梅の木見るごとに心咽せつつ涙し流る
吾妹子之 殖之梅樹 毎見 情咽都追 涕之流
6
04/0786
春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも
春之雨者 弥布落尓 梅花 未咲久 伊等若美可聞
7
04/0788
うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする
浦若見 花咲難寸 梅乎殖而 人之事重三 念曽吾為類
8
04/0792
春雨を待つとにしあらし我がやどの若木の梅もいまだふふめり
春雨乎 待<常>二師有四 吾屋戸之 若木乃梅毛 未含有
9
05/0815
正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ[大貳紀卿]
武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎<岐>都々 多努之岐乎倍米[大貳紀卿]
10
05/0816
梅の花今咲けるごと散り過ぎず我が家の園にありこせぬかも[少貳小野大夫]
烏梅能波奈 伊麻佐家留期等 知利須義受 和我覇能曽能尓 阿利己世奴加毛[少貳小野大夫]
11
05/0817
梅の花咲きたる園の青柳は蘰にすべくなりにけらずや[少貳粟田大夫]
烏梅能波奈 佐吉多流僧能々 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜[少貳粟田大夫]
12
05/0818
春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ[筑前守山上大夫]
波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武[筑前守山上大夫]
13
05/0819
世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にもならましものを[豊後守大伴大夫]
余能奈可波 古飛斯宜志恵夜 加久之阿良婆 烏梅能波奈尓母 奈良麻之勿能怨[豊後守大伴大夫]
14
05/0820
梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり[筑後守葛井大夫]
烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 加射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理[筑後守葛井大夫]
15
05/0821
青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし[笠沙弥]
阿乎夜奈義 烏梅等能波奈乎 遠理可射之 能弥弖能々知波 知利奴得母與斯[笠沙弥]
16
05/0822
我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも[主人]
和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母[主人]
17
05/0823
梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ[大監伴氏百代]
烏梅能波奈 知良久波伊豆久 志可須我尓 許能紀能夜麻尓 由企波布理都々[大監伴氏百代]
18
05/0824
梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも[小監阿氏奥嶋]
烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃々 多氣乃波也之尓 <于>具比須奈久母[小監阿氏奥嶋]
19
05/0825
梅の花咲きたる園の青柳を蘰にしつつ遊び暮らさな[小監土氏百村]
烏梅能波奈 佐岐多流曽能々 阿遠夜疑遠 加豆良尓志都々 阿素i久良佐奈[小監土氏百村]
20
05/0826
うち靡く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分かむ[大典史氏大原]
有知奈i久 波流能也奈宜等 和我夜度能 烏梅能波奈等遠 伊可尓可和可武[大典史氏大原]
21
05/0827
春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に[小典山氏若麻呂]
波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓[小典山氏若麻呂]
22
05/0828
人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも[大判事<丹>氏麻呂]
比等期等尓 乎理加射之都々 阿蘇倍等母 伊夜米豆良之岐 烏梅能波奈加母[大判事<丹>氏麻呂]
23
05/0829
梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや[藥師張氏福子]
烏梅能波奈 佐企弖知理奈波 佐久良<婆那> 都伎弖佐久倍久 奈利尓弖阿良受也[藥師張氏福子]
24
05/0830
万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし[筑前介佐氏子首]
萬世尓 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子[筑前介佐氏子首]
25
05/0831
春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに[壹岐守板氏安麻呂]
波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 烏梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓[壹岐守板氏安麻呂]
26
05/0832
梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし[神司荒氏稲布]
烏梅能波奈 乎利弖加射世留 母呂比得波 家布能阿比太波 多努斯久阿流倍斯[神司荒氏稲布]
27
05/0833
年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ[大令史野氏宿奈麻呂]
得志能波尓 波流能伎多良婆 可久斯己曽 烏梅乎加射之弖 多<努>志久能麻米[大令史野氏宿奈麻呂]
28
05/0834
梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし[小令史田氏肥人]
烏梅能波奈 伊麻佐加利奈利 毛々等利能 己恵能古保志枳 波流岐多流良斯[小令史田氏肥人]
29
05/0835
春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びに相見つるかも[藥師高氏義通]
波流佐良婆 阿波武等母比之 烏梅能波奈 家布能阿素i尓 阿比美都流可母[藥師高氏義通]
30
05/0836
梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり[陰陽師礒氏法麻呂]
烏梅能波奈 多乎利加射志弖 阿蘇倍等母 阿岐太良奴比波 家布尓志阿利家利[陰陽師礒氏法麻呂]
31
05/0838
梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて[大隅目榎氏鉢麻呂]
烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖[大隅目榎氏鉢麻呂]
32
05/0839
春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る[筑前目田氏真上]
波流能努尓 紀理多知和多利 布流由岐得 比得能美流麻提 烏梅能波奈知流[筑前目田氏真上]
33
05/0840
春柳かづらに折りし梅の花誰れか浮かべし酒坏の上に[壹岐目村氏彼方]
<波流>楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓[壹岐目村氏彼方]
34
05/0841
鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ[對馬目高氏老]
于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由[對馬目高氏老]
35
05/0842
我がやどの梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ[薩摩目高氏海人]
和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇i都々 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美[薩摩目高氏海人]
36
05/0843
梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ[土師氏御<道>]
宇梅能波奈 乎理加射之都々 毛呂比登能 阿蘇夫遠美礼婆 弥夜古之叙毛布[土師氏御<道>]
37
05/0844
妹が家に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも[小野氏國堅]
伊母我陛邇 由岐可母不流登 弥流麻提尓 許々陀母麻我不 烏梅能波奈可毛[小野氏國堅]
38
05/0845
鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため[筑前拯門氏石足]
宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米[筑前拯門氏石足]
39
05/0846
霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも[小野氏淡理]
可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能波那可毛[小野氏淡理]
40
05/0849
残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも
能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿
41
05/0850
雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも
由吉能伊呂遠 有<婆>比弖佐家流 有米能波奈 伊麻<左>加利奈利 弥牟必登母我聞
42
05/0851
我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも
和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母
43
05/0852
梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ [一云 いたづらに我れを散らすな酒に浮べこそ]
烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽 [一云 伊多豆良尓 阿例乎知良須奈 左氣尓<宇>可倍許曽]
44
05/0864
後れ居て長恋せずは御園生の梅の花にもならましものを
於久礼為天 那我古飛世殊波 弥曽能不乃 于梅能波奈尓<忘> 奈良麻之母能乎
45
06/0949
梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに
梅柳 過良久惜 佐保乃内尓 遊事乎 宮動々尓
46
06/1011
我が宿の梅咲きたりと告げ遣らば来と言ふに似たり散りぬともよし
我屋戸之 梅咲有跡 告遣者 来云似有 散去十方吉
47
08/1423
去年の春いこじて植ゑし我がやどの若木の梅は花咲きにけり
去年春 伊許自而殖之 吾屋外之 若樹梅者 花咲尓家里
48
08/1426
我が背子に見せむと思ひし梅の花それとも見えず雪の降れれば
吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
49
08/1434
霜雪もいまだ過ぎねば思はぬに春日の里に梅の花見つ
霜雪毛 未過者 不思尓 春日里尓 梅花見都
50
08/1436
含めりと言ひし梅が枝今朝降りし沫雪にあひて咲きぬらむかも
含有常 言之梅我枝 今旦零四 沫雪二相而 将開可聞
51
08/1437
霞立つ春日の里の梅の花山のあらしに散りこすなゆめ
霞立 春日之里 梅花 山下風尓 落許須莫湯目
52
08/1438
霞立つ春日の里の梅の花花に問はむと我が思はなくに
霞立 春日里之 梅花 波奈尓将問常 吾念奈久尓
53
08/1445
風交り雪は降るとも実にならぬ我家の梅を花に散らすな
風交 雪者雖零 實尓不成 吾宅之梅乎 花尓令落莫
54
08/1452
闇ならばうべも来まさじ梅の花咲ける月夜に出でまさじとや
闇夜有者 宇倍毛不来座 梅花 開月夜尓 伊而麻左自常屋
55
08/1640
我が岡に盛りに咲ける梅の花残れる雪をまがへつるかも
吾岳尓 盛開有 梅花 遺有雪乎 乱鶴鴨
56
08/1641
沫雪に降らえて咲ける梅の花君がり遣らばよそへてむかも
沫雪尓 所落開有 梅花 君之許遣者 与曽倍弖牟可聞
57
08/1642
たな霧らひ雪も降らぬか梅の花咲かぬが代にそへてだに見む
棚霧合 雪毛零奴可 梅花 不開之代尓 曽倍而谷将見
58
08/1644
引き攀ぢて折らば散るべみ梅の花袖に扱入れつ染まば染むとも
引攀而 折者可落 梅花 袖尓古寸入津 染者雖染
59
08/1645
我が宿の冬木の上に降る雪を梅の花かとうち見つるかも
吾屋前之 冬木乃上尓 零雪乎 梅花香常 打見都流香裳
60
08/1647
梅の花枝にか散ると見るまでに風に乱れて雪ぞ降り来る
梅花 枝尓可散登 見左右二 風尓乱而 雪曽落久類
61
08/1648
十二月には沫雪降ると知らねかも梅の花咲くふふめらずして
十二月尓者 沫雪零跡 不知可毛 梅花開 含不有而
62
08/1649
今日降りし雪に競ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり
今日零之 雪尓競而 我屋前之 冬木梅者 花開二家里
63
08/1651
沫雪のこのころ継ぎてかく降らば梅の初花散りか過ぎなむ
沫雪乃 比日續而 如此落者 梅始花 散香過南
64
08/1652
梅の花折りも折らずも見つれども今夜の花になほしかずけり
梅花 折毛不折毛 見都礼杼母 今夜能花尓 尚不如家利
65
08/1656
酒杯に梅の花浮かべ思ふどち飲みての後は散りぬともよし
酒杯尓 梅花浮 念共 飲而後者 落去登母与之
66
08/1660
梅の花散らすあらしの音のみに聞きし我妹を見らくしよしも
梅花 令落冬風 音耳 聞之吾妹乎 見良久志吉裳
67
08/1661
久方の月夜を清み梅の花心開けて我が思へる君
久方乃 月夜乎清美 梅花 心開而 吾念有公
68
10/1820
梅の花咲ける岡辺に家居れば乏しくもあらず鴬の声
梅花 開有岳邊尓 家居者 乏毛不有 鴬之音
69
10/1833
梅の花降り覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ
梅花 零覆雪乎 L持 君令見跡 取者消管
70
10/1834
梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに白雪庭に降りしきりつつ
梅花 咲落過奴 然為蟹 白雪庭尓 零重管
71
10/1840
梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る
梅枝尓 鳴而移<徙> 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落
72
10/1841
山高み降り来る雪を梅の花散りかも来ると思ひつるかも [一云 梅の花咲きかも散ると]
山高三 零来雪乎 梅花 <落>鴨来跡 念鶴鴨 [一云 梅花 開香裳落跡]
73
10/1842
雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付きて家居せる君
除雪而 梅莫戀 足曳之 山片就而 家居為流君
74
10/1853
梅の花取り持ち見れば我が宿の柳の眉し思ほゆるかも
梅花 取持見者 吾屋前之 柳乃眉師 所念可聞
75
10/1854
鴬の木伝ふ梅のうつろへば桜の花の時かたまけぬ
鴬之 木傳梅乃 移者 櫻花之 時片設奴
76
10/1856
我がかざす柳の糸を吹き乱る風にか妹が梅の散るらむ
我刺 柳絲乎 吹乱 風尓加妹之 梅乃散覧
77
10/1857
年のはに梅は咲けどもうつせみの世の人我れし春なかりけり
毎年 梅者開友 空蝉之 <世>人<我>羊蹄 春無有来
78
10/1858
うつたへに鳥は食まねど縄延へて守らまく欲しき梅の花かも
打細尓 鳥者雖<不>喫 縄延 守巻欲寸 梅花鴨
79
10/1859
馬並めて多賀の山辺を白栲ににほはしたるは梅の花かも
馬並而 高山<部>乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨
80
10/1862
雪見ればいまだ冬なりしかすがに春霞立ち梅は散りつつ
見雪者 未冬有 然為蟹 春霞立 梅者散乍
81
10/1871
春されば散らまく惜しき梅の花しましは咲かずふふみてもがも
春去者 散巻惜 梅花 片時者不咲 含而毛欲得
82
10/1873
いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む
何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 <梅>花将見
83
10/1883
ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集へる
百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有
84
10/1900
梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてり
梅花 咲散苑尓 吾将去 君之使乎 片待香花光
85
10/1904
梅の花 しだり柳に 折り交へ 花に供へば 君に逢はむかも
梅花 四垂柳尓 折雜 花尓供養者 君尓相可毛
86
10/1906
梅の花我れは散らさじあをによし奈良なる人も来つつ見るがね
梅花 吾者不令落 青丹吉 平城之人 来管見之根
87
10/1918
梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君が廬りせるらむ
梅花 令散春雨 多零 客尓也君之 廬入西留良武
88
10/1922
梅の花咲きて散りなば我妹子を来むか来じかと我が松の木ぞ
梅花 咲而落去者 吾妹乎 将来香不来香跡 吾待乃木曽
89
10/2325
誰が園の梅の花ぞもひさかたの清き月夜にここだ散りくる
誰苑之 梅花毛 久堅之 消月夜尓 幾許散来
90
10/2326
梅の花まづ咲く枝を手折りてばつとと名付けてよそへてむかも
梅花 先開枝<乎> 手折而者 L常名付而 与副手六香聞
91
10/2327
誰が園の梅にかありけむここだくも咲きてあるかも見が欲しまでに
誰苑之 梅尓可有家武 幾許毛 開有可毛 見我欲左右手二
92
10/2328
来て見べき人もあらなくに我家なる梅の初花散りぬともよし
来可視 人毛不有尓 吾家有 梅<之>早花 落十方吉
93
10/2329
雪寒み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね
雪寒三 咲者不開 梅花 縦比来者 然而毛有金
94
10/2330
妹がためほつ枝の梅を手折るとは下枝の露に濡れにけるかも
為妹 末枝梅乎 手折登波 下枝之露尓 沾<尓>家類可聞
95
10/2335
咲き出照る梅の下枝に置く露の消ぬべく妹に恋ふるこのころ
咲出照 梅之下枝<尓> 置露之 可消於妹 戀頃者
96
10/2344
梅の花それとも見えず降る雪のいちしろけむな間使遣らば [一云 降る雪に間使遣らばそれと知らなむ]
梅花 其跡毛不所見 零雪之 市白兼名 間使遣者 [一云 零雪尓 間使遣者 其将知<奈>]
97
10/2349
我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て
吾屋戸尓 開有梅乎 月夜好美 夕々令見 君乎祚待也
98
14/3360
伊豆の海に立つ白波のありつつも継ぎなむものを乱れしめめや
伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 <美>太礼志米梅楊
99
17/3901
み冬継ぎ春は来たれど梅の花君にしあらねば招く人もなし
民布由都藝 芳流波吉多礼登 烏梅能芳奈 君尓之安良祢婆 遠<久>人毛奈之
100
17/3902
梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽かにせむ
烏梅乃花 美夜万等之美尓 安里登母也 如此乃未君波 見礼登安可尓勢牟
101
17/3903
春雨に萌えし柳か梅の花ともに後れぬ常の物かも
春雨尓 毛延之楊奈疑可 烏梅乃花 登母尓於久礼奴 常乃物能香聞
102
17/3904
梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは惜しきものなり
宇梅能花 伊都波乎良自等 伊登波祢登 佐吉乃盛波 乎思吉物奈利
103
17/3905
遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざしてば思ひなみかも
遊内乃 多努之吉庭尓 梅柳 乎理加謝思底<婆> 意毛比奈美可毛
104
17/3906
御園生の百木の梅の散る花し天に飛び上がり雪と降りけむ
御苑布能 百木乃宇梅乃 落花之 安米尓登妣安我里 雪等敷里家牟
105
18/4041
梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてら
宇梅能波奈 佐伎知流曽能尓 和礼由可牟 伎美我都可比乎 可多麻知我底良
106
18/4134
雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむはしき子もがも
由吉<乃>宇倍尓 天礼流都久欲尓 烏梅能播奈 乎<理>天於久良牟 波之伎故毛我母
107
19/4174
春のうちの楽しき終は梅の花手折り招きつつ遊ぶにあるべし
春裏之 樂終者 梅花 手折乎伎都追 遊尓可有
108
19/4238
君が行きもし久にあらば梅柳誰れとともにか我がかづらかむ
君之徃 若久尓有婆 梅柳 誰与共可 吾縵可牟
109
19/4241
春日野に斎く三諸の梅の花栄えてあり待て帰りくるまで
春日野尓 伊都久三諸乃 梅花 榮而在待 還来麻泥
110
19/4277
袖垂れていざ我が園に鴬の木伝ひ散らす梅の花見に
袖垂而 伊射吾苑尓 鴬乃 木傳令落 梅花見尓
111
19/4278
あしひきの山下ひかげかづらける上にやさらに梅をしのはむ
足日木乃 夜麻之多日影 可豆良家流 宇倍尓也左良尓 梅乎之<努>波牟
112
19/4282
言繁み相問はなくに梅の花雪にしをれてうつろはむかも
辞繁 不相問尓 梅花 雪尓之乎礼C 宇都呂波牟可母
113
19/4283
梅の花咲けるが中にふふめるは恋か隠れる雪を待つとか
梅花 開有之中尓 布敷賣流波 戀哉許母礼留 雪乎待等可
114
19/4287
鴬の鳴きし垣内ににほへりし梅この雪にうつろふらむか
鴬能 鳴之可伎都尓 <々>保敝理之 梅此雪尓 宇都呂布良牟可
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恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける
宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅<能> 知利須具流麻O 美之米受安利家流
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見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ
美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴
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梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ
宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布
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梅の花咲き散る春の長き日を見れども飽かぬ礒にもあるかも
烏梅能波奈 左伎知流波流能 奈我伎比乎 美礼杼母安加奴 伊蘇尓母安流香母
<和歌一覧、以上>
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時代区分:奈良、平安時代 |