昭和初期から、また井の頭公園の植生は人為的に変化していきます。

<「公園・神社の樹木(渡辺一夫著)」より、転載>

スギは、日本の木であるが、井の頭池の池畔には「ラクウショウ」という、北米原産のスギの仲間も植えられている。ラクウショウは、日本のスギとどうように土壌水分の多い場所で良く育ち、湿地や沼に生えることから、別名ヌマスギ(沼杉)と呼ばれている。おもしろいことに、根元に近い地中からまるで杭のような根が立ち上がる。
この根は、呼吸根(気根)と呼ばれ、水に浸かって呼吸が難しくなった本来の根に代わって、空気中に立ち上がって、呼吸を行う役割があるという。

ラクウショウは、漢字で書くと「落羽松」で、その名は、鳥の羽のような葉をもつ落葉性の針葉樹であることに由来している。その幹はまっすぐ伸び、美しい樹形を見せてくれる。
井の頭池の池畔にラクウショウが植えられたのは、昭和五年のことである。目黒にあった林業試験場から寄贈されたものを池畔に植えたものだ。戦前の池畔は、昼なお暗い幽玄なスギ林に、明るいラクウショウが混じる落ち着いた雰囲気の針葉樹の森だったようだ。

<転載、以上>

所が、現在の井の頭公園には、スギの林は見られません。この事情を同書は、さらに以下の通り、解説しています。
注:また、ラクウショウについては、本サイト内の樹木研究のこちらのカテゴリーをご覧ください。

<転載、部分>

現在の池畔には、ラクウショウは残っているものの、スギ林はみられない。というのも、太平洋戦争の末期に、伐採されたからである。昭和19年に軍が井の頭池の畔にあたった一万五千本のスギの伐採を命じた。木材が極端に不足していたのである。伐られたスギは、空襲の犠牲者を納めるお棺の材料や防空壕の建材になったという。
池の周囲を歩いていると、弁天橋のたもとに、一本の太いスギがある。幹が途中で折れているのであまり目立たないが、直径は50cm以上あり、戦時中の伐採を免れた数少ない生き残りかもしれない。もし、スギ林が存続していたら、そうとう見事な森になっていただろう。

<転載、以上>

戦後、このスギが伐採された後に落葉広葉樹のケヤキ、サクラ、イロハモミジ、カツラなどが植えられ、現在では、井の頭池の周囲は、落葉樹林となっています。

一方、北米原産のスギのラクウショウはというと点在していたラクウショウは、昭和11年に井の頭の西側にある自然文化園の分園に新設された水族館の敷地に植木として移植されました。そして、現在もその見事な姿を見せているようです。
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昭和期の植生