【大江戸繁昌町尽とはーその1】

江戸の町をその賑わいや遊興(観光)目的で歩かせる目的で登場したと思われる「大江戸繁盛町尽番付。その分析をしていきます。この番付に着目したのは、町の繁昌の順番付けをしたような形で、実は、「歩行者に便利なように」作られたというその形式の妙にあります。以下、番付文化に詳しい文献から、その魅力を調べていきます。

<「番付で読む江戸時代」(青木美智男、林英夫編、柏書房刊行)(1)江戸の繁昌:千葉正樹著 より、転載>

▶奇妙な番付「大江戸繁昌町尽」

「大江戸繁昌町尽」という見立番付はいささか奇妙である。題名をいる限りでは、大江戸で繁昌している町々をすべて書き並べましたよ、ということになる。それも番付のかたちになっているわけだから、町々の繁昌の順番を明らかにしましたよ、ということだと思ってしまう。

しかし、左側の欄外には「此書町々の甲乙を論せず、只歩行に便利からしむるため也」、つまりこの番付は町々に順番を付けているのではなく、ただ歩行者に便利であるようにした、といっているのである。順番を付けない番付に意味はあるのだろうか。これが第一の疑問である。

見立番付の妙味は、ふつうではなかなか全体像を把握しきれない題材を取り上げて、意外な角度から順番を付けていくところにある。

匿名の番付作者は、番付の形を借りることによって、自分の良く知る分野の内情を暴露し、時には既存の権威をひっくり返したりもしてくれる。番付を読む者たちは、その順位付けにあらわされた作者の鋭い視点に共感したり、反発したりしたのであって、だからこそ商品になり得た

と考えられる。


<転載、以上>

兎に角、まず番付をご覧ください。以下に同書よりの実際の番付とその翻刻版を掲載します。

<原文の番付>


<翻刻された番付>


そして、これに続く記述で千葉氏は、この奇妙な番付に様々な疑問を投げかけつつ、その不思議さと面白さに引き込まれたことを語っていきます。以下には、その疑問をご紹介し、この番付の楽しみ方をご紹介します。

【様々な疑問点とは】

1)確かにこの番付では各町々について、「何々町のうら」とか「何々橋の北」といった簡単な案内をつけている。が、本当にこれだけの言葉で、行きたい町に行けたのだろうか?(中略)絵図や地図であればともかく、十文字足らずの言葉から、江戸の地理をくまなく把握できるような知識を江戸の人々は蓄えていたのだろうか?

2)どのような需要がこの番付の出版を支えたのか?
3)番付作者が表現しようとした大江戸の繁昌とは一体何なのか?
4)この番付はいつ成立したのか?


以下の章では、こうしたこの番付を解題することでこうした疑問に向き合っていく作業を追いかけていきます。

その2へ

<この項、了>
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